一時保護解除後に親子で心中した事件に関して雑記


島根県で12月2日にある親子が心中した。親は今日時点で意識不明の重体。子どもは亡くなった。

子どもは親からの食事を与えないなどのネグレクトを疑われ、9月に児童相談所に一時保護された。

親は児童相談所から子どもを施設入所させるよう提案したが、この提案を拒否したらしい。

児童相談所は施設入所への同意が親から得られなかったために、家庭訪問と在宅支援を行うこととし、11月25日に一時保護が解除された。

そして1週間後に今回の事件が発生した。

一時保護とは

虐待されている子どもについて「一時保護した。」という場合は、デパートで迷子を保護したというようなニュアンスではない。

児童福祉法に基づく強力な処分が下されたという意味である。

第33条第1項 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。

児相所長は「この子の安全を確保する必要がある。」、「この子の心の傷を調査する必要がある。」、「この子の家庭環境を調べる必要がある。」などと安全確保又は調査の必要があると考えたとき、子どもの意向も親の意向も誰の意向も無視して、子どもを一時保護所(児童相談所の中にあることがほとんどである。)や子どものための施設に強制的に入所させることができる。この(委託)入所処分を一時保護という。

虐待している親が自発的に子どもを預けるケースなど希だ。よくあるケースは徹底的に抵抗する、虐待を否認する、怒る、泣くといった形で親が子どもの確保に動く。親の気持ちはわからなくはないのだが、他方で親から自力で逃れられない子どものことを思うとき、「親が拒否するから子どもは守れませんでした。」ではお話にならない。だから、一時保護という日本法の中でも強力な部類に属す処分が認められているのである。

一時保護の制限

超強力な処分は裏返すと、人権をかなり制限する措置である。まあ、事情を知らない第三者からすれば、一時保護は誘拐と区別がつかないのである。親子を引き裂き、子どもを学校に通わせることもない(もちろん一時保護所内で学習は保証される。)。

だから一時保護は原則2か月である(児童福祉法33条3項)。

2か月を超えて親等の意向を無視して一時保護する場合には家庭裁判所の許可を必要とする(同5項)。

一時保護中に必要な調査を終えた場合、大きく2つの選択肢が児相にはある。1つは親に注意してこのまま家庭に復帰させる。もう1つは施設に入所させる。(児童福祉法27条)

施設に入所させる場合に、親等が反対した場合に、それでも入所の必要があると児相が考えるならば、家庭裁判所の許可を得て、強制的に施設に入所させることになる(児童福祉法28条)。

今回のケース

9月に一時保護して、11月25日に一時保護解除ということは、まさに2か月の期間制限がネックになった事案であろう。

児童相談所は親に子どもを施設に預けるよう説得したが、受け入れられなかったという。当然、一時保護を延長するかどうか、強制的に施設に入所させる手続きをとるかどうかの検討も行ったであろう。

しかし、ネグレクト事案は、ネグレクトの証拠を集めにくく、ネグレクトが子供に与える影響が評価しにくい。2重の困難が生じる事案である。資料や評価がきちんとそろわなければ、手続をとっても家庭裁判所を説得できないと考え、手続は断念したのかもしれない。

説得の方法は適切だったのか? 一時保護の延長・強制施設入所に向けた手続きの要否の判断は適切だったか? 児童相談所を責めるつもりはないが、検証は必要不可欠だろうと思う。

もう少し踏み込んで

一時保護の手続を厳格にしたのは失敗ではないか

一時保護の延長に家裁の許可が必要になったのはつい最近である。法律が改正されたのだ。この法改正により、児童相談所が一時保護に慎重になったとすれば、それは単純に良いことだとは言い切れない。

児童相談所を含む行政が人権・権利を尊重することが必要不可欠なのはいうまでもないが、天秤の片方に「自力では危険から逃れられない子どもの安全」という人権が乗せられ、もう片方に「親の監護権」だとか「親子の愛情」だとかが乗せられた場合、どちらを優先すべきかは明白なはずである。

少しでも子どもの身に危険があると判断する要素があるのであれば、積極的に一時保護すべきだし、一時保護の延長もすべきだ。児相の権力は著しく強まるものの、一時保護に不服のある親は、不服申立てやその他の裁判手続で決着をつければよい。

一時保護を委縮させるような法改正をして子どもが死んだのであれば、責任は立法府にあろう。

精神衛生福祉法上の手続きについて

完全に推測だが、無理心中を図るくらいの親であるから、精神的に何らかの問題を抱えていた可能性はあると思う。

この国は歴史的経緯から(また、保健所や精神病院等の雰囲気もあって)、精神疾患を抱えた人間に対する強制的な診察、入院に消極的である。「精神疾患を抱えている人は他人に危害を加える」などという短絡的な発想は厳に慎むべき誤解偏見であるが、他方で適切な受診、入院が図れていれば死なずに済んだ命もあるはずである。これは無茶な話でも法的な根拠もない話ではない。精神衛生福祉法上の措置入院、医療保護入院、強制診察等の手続きを使えばやれないことはないのだ。

特に児童福祉の観点からすれば、軽重はあれど精神的な疾患を抱えながら育児をすれば無理が重なり、その無理が虐待につながっていくことはよく見られる構図である。

保護者に対する精神衛生福祉上の取組みを強化するかどうかの検討も、今回の事件での反省点としてあげられるべきではないだろうか。


一時保護解除後に親子で心中した事件に関して雑記」への2件のフィードバック

  1. ゼロリスクなんてありません
    もっと一時保親子分離の副作用に目を向けるべきでは?
    思考停止なんですよ
    安全第一
    だから積極的に、まる、終わりって

    幸福度の期待値を最大にする政策をとるべきです

  2. 先にコメントされているあんこさんの言う通りです。これはまさに一時保護の表面しか知らない方の文章ですね。

    何事にもリスクゼロはありえませんし、一時保護を強化した際の副作用は本当にひどいものです。

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