三浦しをんの同名小説を原作とした、大森立嗣監督の映画。
以下がっつりネタバレに触れるので注意。
1 あらすじ
離島で暮らす主人公の信之(のぶゆき)は、恋人の美花(みか)を襲った男を殺害する。その様子は弟分の輔(たすく)に目撃され、死体を撮影される。その後、津波で島の住民は散り散りとなった。25年後、信之は妻と娘の3人で暮らしていたが、妻は輔と不倫している。美花は女優として成功している。輔は輔の父と一緒に信之と美花をゆすり始める。信之は美花のために行動し始めるというあらすじ。
2 散りばめられた暴力にまつわる神話的表象
なんとも神話的表象の多い作品だと思った。
カピトリヌスの雌狼像が印象的に用いられるが、これはロムルスによるレムス殺し。途中、娘が月の絵を描いたり、狼に追いつかれる夢を見るという話が出たが、北欧神話のマーナガルムだろう。飲み込まれるのはラグナロクが始まる時期になったことを意味する。父殺しにまつわるアレコレはオイディプス。夫が一度家を捨てて大仕事を終えて再び自分の家に戻ってくるというのはオデュッセイアを彷彿とさせる。死体から椿が生えてくるが、その椿が娘の名前と一緒だというのも、殺人行為により何かを獲得するという意味で捉えればハイヌウェレ型の神話を思い起こさせる。暴力にまつわる様々なモチーフが散りばめられているのだ。女性に対する暴力、親に対する暴力、子に対する暴力、夫婦間の暴力、兄弟間の暴力などなど、これらの暴力に一体何の意味があるのかを神話的表象で悟らせる。
闇に葬られようとする暴力が重ねられていくストーリーの中で、最後に信之の暴力性が白日のもとにさらされるラストも良い。「光」とはそういう意味なのではないだろうか。その光のなかにまた家族という救いもあることを示した作品なのではないだろうか。とはいえ、光の底には常に闇がうごめいているということでもある。
なんとも虚しさを感じる映画だったが、それこそが狙いなのだろうと個人的に思う。