内定辞退者のマナーがまたとやかく言われている。
上田晶美氏の戦略
今日の日経新聞で株式会社ハナマルキャリア総合研究所代表取締役の上田晶美氏がこんなタイトルの記事を書いていた。
「内定辞退は礼を尽くして メールだけでは軽すぎ」
私は挑発的なタイトルだと感じた。ネット上でも、「企業が内定を出さないときはお祈りメール一本で済ませるのに不公平だ。」とか、「いちいち電話で連絡されても困る。」とかいった反発が散見された。
とはいえ、私は上田氏のしたたかな戦略を感じる。反発とは注目に転化するもので、宣伝効果もあるだろう。また、内容も別に「悪いこと」を言っているわけではなく、「小うるさい」だけなので炎上もしないだろう。記事に納得してくれて上田氏の書籍や「内定辞退セット」を購入してくれれば利益も上がる。上田氏にとっては悪くない結果だ。
ただ、私の上田氏への評価はダダ下がりであるし、内定辞退セットなる商品も不要と考えるので、以下に述べる。
上田晶美氏の記事
上記の記事を要約すると、
- 企業は学生が無断で内定辞退することに困っている。
- 大学や後輩の信頼に悪影響を与える。
- 内定辞退は悪いことではないので、メールではなく手紙で出そう。
ということだ。
1、2はよくわかる。
無断での内定辞退は困るだろう。内定は労働法上、解約権留保付き就労始期付き労働契約と解釈できる。
これは通常の労働契約とは異なり、解約権(内定時に知りえなかった、知ることが期待できなかった事項を理由に内定を取り消す権利。)が留保されている労働契約であり、また、就労始期(実際に仕事を始める日)が決まっている労働契約ですよという意味だが、大事なのは労働契約であるという点、すなわち約束という点である。
就活がどうとかこうとかというレベルの話ではなく、社会一般的な常識として「約束」は守らなければならないということがルールである。
「内定あげます」「要りません」と即答するならまだしも、「内定上げます」「ありがとうございます」と言っているなら会社に入ると約束しているも同様ではないかと思う。その上で、「やっぱ行きません。」というのは原則約束違反なのだ。
ただ、企業側が内定を取り消す権利を留保しているのと同様に、就活者側が内定を辞退する権利も当然留保されているのが、また社会一般的な公平感覚に合うだろう。
だからといって、就活者側が内定を辞退する場合に無断で内定を辞退してもいいことにはならない。企業が「あなたに内定をあげます」ときちんと意思を表明したのと同様に、就活者側も「内定を辞退します」ときちんと意思を表明するのが公平なわけだ。解約権を行使せずに(正当な手続きを踏まずに)約束を破ったという点において、企業に損害を生じせしめたのであれば、就活者は非難を免れないだろう。
約束という視点と公平という視点から見ると、無断内定辞退の反倫理性がなんとなく理解できる。
また、大学や後輩の信頼に悪影響を与えるという点もわからんでもない。「人はそれぞれ全く違う、個人を見てくれ」などというのは正しいと思うが、極論でもある。人は相互に同質な部分もあれば異質な部分もあるわけで、色眼鏡だ、偏見だと言われたとしても、人を集団としてみることはやめられないだろう。法律は陥れられた1人の弱者のためにあると私は信じているが、社会は法律だけでできているわけではないので、1人の無責任な就活者の行動が、関係ない就活者に悪影響を及ぼすということは避けられない。
ただ、3はわからない。正直意味不明である。1,2と続いて出る結論は「内定辞退のメールを一本打っておきましょう」でいいはずだ。手紙を書けとか言われても困る。私は就活の時内定を辞退したところへ手紙など書かなかったし、内定の辞退を受けたこともあるが手紙をもらっても保管に困る。こっちも手紙を書いた方がいいかな、なんて考えるだけでも煩わしいことである。
過剰対応というものだろう。「無断での内定辞退は失礼だから、メールではなく手紙を出しましょう」という論調は、「ダイエットをしないといけないから、低カロリー食を食べるのではなく、絶食しましょう」のような雰囲気を感じる。そこまでせんでもいい、というのが普通の感想ではないのか。
もちろん臨機応変というのはどの場面にでもある。採用担当者が親しい人やお世話になった人なら電話の方が気持ちが伝わるだろうし、メールアドレスを教えてもらってないなら手紙でもいいだろうし、法的紛争が予見される場合には内容証明郵便がいいだろう。
文面
内定辞退を知らせるメールの文面の例
(採用担当者の氏名)
平素より大変お世話になっております。(辞退者の氏名)です。
メールにて失礼いたします。
この度は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
しかしながら、大変恐縮ではございますが、内定を辞退させていただきたく存じますので、どうぞよろしくお取り計らいください。
ご迷惑をおかけいたしますが、ご容赦いただきたく存じます。
最後になりますが、貴社の益々の発展を心よりお祈り申し上げます。
(辞退者の氏名)