全国戦没者追悼式に深山卓也最高裁判事が最高裁長官代理で出席した件


令和6年8月15日に開催された終戦79年目の全国戦没者追悼式の件で面白いことがあったので記録する。

 

全国戦没者追悼式は国家的行事の1つである。天皇皇后両陛下のご臨席を賜る行事は限られている。また、三権の長全員(衆参議長、首相、最高裁長官)が出席し、それぞれが追悼の辞を述べる。それほど日本にとっては重要な行事なのである。

 

今年の全国戦没者追悼式では最高裁判所長官がいなかった。司法府からの追悼の辞は最高裁判所長官代理として最高裁判所判事深山卓也が述べた。全国戦没者追悼式は、半世紀以上、毎年8月15日に挙行される。最高裁判所長官がいなかった理由がスケジュール調整できていなかったということはありえない。

体調不良の場合がありえる。以前、細田衆議院議長が体調不良により(後に亡くなったが)、代理が追悼の辞を代読した。

しかし、どうも今回の欠席は体調不良ではなかったようである。

 

令和6年8月10日、戸倉三郎最高裁判所長官(当時)が退官した。それに先立つ7月9日の時点で、次期最高裁判所長官として今崎幸彦最高裁判所判事が指名内定されていた。

これは戸倉長官が8月11日で70歳となるため、裁判所法50条に基づき、退官することになったこと(定年退官)にともなう後任人事である。

後任指名の権限は内閣にある(憲法6条2項及び裁判所法39条1項)。内閣の意思決定は閣議による(内閣法4条1項)。したがって、今崎判事の長官指名内定は閣議決定に基づく。

最高裁長官に今崎幸彦氏起用決定 判事に平木、中村氏 2024年8月15日閲覧)

 

ただ、憲法は最高裁判所長官の任命は別の手続きによることになっている。つまり天皇による任命である(憲法6条2項)。

今崎幸彦氏については、7月9日の閣議決定で最高裁判所長官に指名されているものの、本日までに最高裁判所長官として任命されていない(正確には任命されたとのニュースがない。)。天皇による任命を行う式典を親任式と呼ぶ。日本国憲法下においては内閣総理大臣と最高裁判所長官の任命でしか行われない。

 

一応、最高裁判所長官に関する内閣の指名権は実質的な決定権と解釈されている。というのも天皇は国政に関する権能を持たず(憲法4条1項)、少なくとも最高裁判所長官の任命には、内閣の助言を要することになるからである(憲法3条)。つまり、内閣は自らが指名した人物を任命するよう天皇に助言するはずで、天皇はこれに従わざるをえない。

 

未だ天皇が任命していない時点では最高裁判所長官は不在となる。実はこのことは結構重大なことだと思う。内閣の場合、内閣総理大臣が死亡等で欠けた場合、内閣としては総辞職するが(憲法70条)、新たな内閣総理大臣が任命されるまでの間は、辞職した内閣が職務を継続する(憲法71条)。しかし、どうも最高裁判所長官については憲法にそのような規定がない。

裁判所法にもない。

最高裁判所裁判事務処理規則には、毎年12月の裁判官会議において最高裁判所長官が差し支えの場合の代理順序を定めることが規定されている。しかし、これは明示的には裁判の処理に関するものである。最高裁判所長官として行う司法行政や公的行事の代理順序を定めるものとはいえない。

別に定めがあるのかもしれない。でも、裁判所法では司法行政は最高裁判所長官が統括するとか、裁判官会議での議長になる(裁判所法12条)などと書いている。まだ最高裁判所長官が天皇から任命されていない間は、統括者・議長不在の司法行政、裁判官会議になるということなのか。裁判は上記の規則に従って滞りなく行えるとしても、司法行政等についてはこれでよいのだろうか……。

 

いずれにせよ深山卓也判事が最高裁判所長官代理として出席した根拠はよくわからない。事務処理規則に基づいているかどうかも不明である(全国戦没者追悼式は明らかに裁判ではないので、そもそも適用されていないように思われる。)。そうすると、特に法令規則等に基づくものではないが、最高裁判所の裁判官会議で全国戦没者追悼式に最高裁判所長官代理として今崎幸彦判事を出席させることが決まったのだろうか。8月10日までは戸倉長官がいるので裁判官会議での決められるだろう。このあたりは内規の関係もあるのでよくわからない。

根拠規定がなくても深山卓也判事は現時点での最先任最高裁判所判事なので、代理として出席するのは自然なようにも思える。

もっとも、そもそも本日時点で最高裁判所長官はまだ任命されておらず不在なので、深山判事は最高裁判所長官の代理としてでも出席できたのであろうか? いない人物の代理というのはどういうことなのだろうか? 全国戦没者追悼式は重要な式典なので司法府代表として誰かが出てくる必要はあったのだろうが、なかなか判断が難しい処置だったのかもしれない。

 

あと、全く突飛な妄想になるが、内閣が司法権を潰すことも可能なのだろうか。というのは、最高裁判所長官以外の裁判官(下級審も含む。)の任期や定年は決まっているわけだから、自然に考えれば新しい人を任命しない限り、人数は減り続ける。最高裁判所長官も指名しなければ任命できない。この最高裁判所長官以外の裁判官の任命権は内閣にあり(憲法79条1項、80条1項)、最高裁判所長官の指名権は内閣にあるのは上述のとおりだから、内閣は長期的には裁判官をゼロにすることもできる。この場合、内閣が違憲な政治を繰り返しても、誰も違憲判決を書けなくなる(特に最高裁判所について憲法81条)。なんてね。

 

参考記事

・三権の長は4人いる。

・令和6年 全国戦没者追悼式 天皇陛下のおことば 雑考


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