「だいくとおにろく」の法的考察


先日「だいくとおにろく」という絵本を読んだ。

1 あらすじ

大きな川に大きな橋を作る依頼をうけた大工が「どうやって架けよう」と悩んでいた。

すると川の中から鬼が現れ、「俺が橋をかけよう。報酬はお前の目玉だが良いか?」と聞いた。

大工は「俺はどうでもええんだが・・・。」といい加減に答えた。

次の日には橋が半分くらいできて、その次の日には立派な橋が完成してしまった。

大工は鬼から「約束通り目玉をよこせ」と言われて困ってしまう。

(何故か)鬼は「俺の名前があてられたら、目玉はいらない」と言う。

そこで、大工はどうしたものかと思いながら家に帰る途中で、鬼が子どもの歌に登場する「鬼六」だと気づく。

翌日、大工は鬼に「お前は鬼六だ。」と告げて目玉を取られるのを免れる。

 

2 大工と村の関係

橋をかけるという仕事を、村が大工に発注している。おそらく村は大工に報酬を払うはずだ。民法上は請負契約という契約が成立しているる。

もし、村が「朝は何時に来て、1時間あたり何円の時給で働いて貰います。橋の木材はこの道具を使ってこうやって加工して、労災の場合はどうのこうの」と大工に事細かに指示していれば、請負契約ではなく労働契約といえそうである。ただ、物語では、特に村が指示している様子がないので、請負契約でほぼ間違いないであろう。

もし、労働契約だったらどうなるかを考えるのは面白い。おそらく鬼が「目玉の代わりに橋を作ってやるよ」などと言っても、大工は「私は雇われているだけなので、村長に相談してから回答いたします。」などと回答するだろう。また、大工が「代わりに作ってくれ」などということもできなくなるだろう。労働契約は契約した労働者が労働力を提供しなければならないからだ。(他人を代わりに働かせることは原則禁止されている。)

ところで、後でも述べるが、村と鬼は別に契約関係はない。だから、今回鬼が橋を作ってはいるのだけれど、それは村には関係がない。

3 大工と鬼の関係

大工と鬼の関係はどうだろう。鬼が「代わりに作ってやろうか。」と大工に言っているので、村と大工の関係が大工と鬼の関係にもあてはまる。そこで、鬼と大工の間にも、請負契約が成立しているといって良いと思われる。

請負契約は仕事の目的報酬合意されている必要がある。鬼と大工の間では、仕事の目的は橋であり、報酬は目玉である。

ただ、大工は明確に「それでは目玉を報酬に橋を作って下さい。」とお願いした形跡はなく、「いい加減な返事」をしたにすぎないから、そもそも鬼と大工の間で合意があったかが怪しい

例えばコンビニで「ファミチキ下さい」と言ったのに対し、店員から「いやまぁ、おれはどうでもいいんだが・・・」などと言われたら、売ってくれるのか、くれないのか、よくわからない。これは売買契約が成立していないといってもいい。

しかし、今回の昔話では橋を完成させた鬼が「目玉(報酬)よこせ」と言ったのに対し、「そんな約束はしてない。お前が勝手に作っただけだろ。」とは大工は言わなかった。大工もいい加減な返事はしたものの、請負契約が成立したという意識があったのではないだろうか(黙示の合意)。

 

そこで仮に契約自体は成立しているとしよう。

ただ、報酬が目玉とはあんまりである。法的には、契約内容自由の原則といって、契約する人達がその内容を自由に決定できる。しかし、重要な例外がある。公序良俗に反する契約の無効である。どんな社会であっても、報酬に目玉をよこせというのは残酷だし、そのような契約を社会が認めてしまうと、借金をするときに「返せないときは腎臓を売る」などという合意が必ず混ざるようになる。社会が殺伐として、強い者は弱い者に無茶苦茶な契約を結ばせようとする。そんなことはあってはならない。

そこで、今回の契約自体が成立していても、請負契約は無効である。

 

ここで処理しなければならないのは、できあがってしまった橋の処理である。

鬼はまだ大工に橋を渡していない。そのため、契約が無効であれば、橋は鬼が作ったものであるから、鬼の所有物だ。鬼は別に橋なんて要らないから、壊しても良い。その橋を村に売ってもよい(売買契約)。お金が欲しくなければ酒と交換でもよい(交換契約)。鬼に感謝する記念碑の建造と引き替えに村にプレゼントしても良い(負担付き贈与契約)。ここらへんは鬼の自由である。

仮に鬼が大工に橋を渡してしまっていればどうだろう。契約が無効なので、鬼は原則として「橋を作ったが、目玉が手に入らないのなら、お前も橋を返せ」と言えそうである。一見もっともだが、今回は公序良俗違反が隠れているので、単純にはいかない。民法上、公序良俗に反する契約に基づいて引き渡した物やお金は、返さなくても良い場合がある。

鬼が大工に橋を渡してしまっていれば、目玉は取れないわ、橋は返してもらえないわで、一見かわいそうな結果となる。まあ、多少痛い目に遭ってもらうというのも社会的には仕方が無いのであろう。これを不法原因給付の処理という。

 

4 村と鬼の関係

村と鬼の関係は、鬼が橋の引き渡し前であれば、鬼の自由になると言った。だから村は鬼と交渉して売ってもらったり、通行料を払うから使わせてくれとお願いしたり、することになろう。

反対に、鬼が大工に橋を引き渡した後は、大工がその橋を村に引き渡すことになるが、村から鬼に報酬がいくことはまずない。鬼と村との間には契約関係がないからである。村は大工に報酬を払うことになる。大工が鬼にお礼をするかどうかは大工と鬼の問題である。


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