戻し収容申請
少年事件の一類型である。
一度、少年院に入院した少年は、処遇の最終段階に達したなどの事情があれば、仮退院することになる(更生保護法41条)。仮退院した少年は保護観察に付される(更生保護法42条、40条)。保護観察中の少年は保護観察所にいる保護観察官や保護司により補導援護を受ける。
保護観察時には、遵守事項が付される(更生保護法50条、51条)。代表的な遵守事項は「再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。」(更生保護法50条1号)である。
遵守事項を少年が守らなかった場合、保護観察所を監督する地方更生保護委員会が、少年院に少年を戻して収容するよう家庭裁判所に申請することができる。これを戻し収容申請という。管轄する家庭裁判所は、仮退院した少年院に送致した当初の家庭裁判所である。例えば、大分家庭裁判所本庁が少年院送致の審判を下して、少年院に入所していた少年が、少年院を仮退院したものの、遵守事項を守れず戻し収容申請をされた場合、その管轄裁判所は当初の家庭裁判所である大分家庭裁判所本庁になる。(更生保護法71条)
家庭裁判所は、相当と認めれば、少年を少年院に戻して収容する決定を下す(更生保護法72条1項)。
手続
戻し収容といいつつも、結局は遵守事項違反という新しい非行事実で少年院に送致するのと本質的には同じであるから、手続は少年の保護処分の手続によるのが原則である(更生保護法72条5項)。
しかも、更生保護法72条4項より、戻し収容申請事件では、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識を有する者及び保護観察所の長の意見を聴かなければならないことになっている(少年審判では意見聴取は努力規定になっている)。
そこで、戻し収容申請をされた少年については、観護措置決定が取られることが多い(少年法17条1項)。
観護措置決定がとられた場合、大分県では当番付添人を呼んだ上で、付添人とすることができる。
なお、戻し収容申請事件は、国選付添人対象事件ではないので(少年法22条の3)、私選付添人となる。その場合、付添人費用は日本弁護士連合会の委託援助事業を活用して取得する。これによって、少年本人に負担は生じない。[1]国選付添人の選任に裁判所が消極的な理由もここにあるのではないかと思う。
付添人活動について
基本的な付添人活動は、通常の少年事件と同じく、少年への面会と少年の環境調整が主である。
戻し収容申請の傾向
平成29年に全国で10件申請があり、うち9件が戻し収容決定、残り1件が理由なし、であった。
なお、審判例をみると、管見の限り、絶対数は少ないものの、戻し収容となるケースが圧倒的に多く、また、環境調整命令が発されるケールも散見された。加えて、どうも特性のある少年について、少年院仮退院後の環境調整が失敗している例が多いように思われる。再度の環境調整に時間がかかるため、医療少年院等への入所も選択肢に入れつつ、時間をかけた環境調整を行うことと、適切な教育指導を行うために少年院に戻すという発想に至るようである。
これ自体、通常の少年院での処遇の限界であって、医療少年院や外部の医療機関において、何らかの専門的かつ濃密な治療が必要なのではないかと思うが、これはこれで人権侵害のおそれがあることは過去の事例が証明していることであって、妥当な解決が非常に困難な事件類型であるのではないかと思う。
References
↑1 | 国選付添人の選任に裁判所が消極的な理由もここにあるのではないかと思う。 |
---|