刑事事件における示談・被害弁償 その意味・条件・方法


被害者がいる刑事事件では被害者と加害者が示談をすることがある。加害者に刑事弁護人がついている場合、弁護活動上、示談(被害弁償)ができるかどうかはとても重要な事情になる。

示談の意味

示談は民事事件では和解と言い換えることができる。お互いに歩み寄って、紛争を解決させることだ。ただ刑事事件の場合には被害者側が歩み寄るというのにちょっと違和感があるか和解という言葉は使わず、示談ということが多い(のだと思う)。また、財産犯では示談ではなく被害弁償と呼んだりもする。

ただ、本質的なところは和解とあまり変わらない。

弁護人が示談を進める理由

弁護人は被疑者・被告人の利益のために活動しなければならない。この大原則から、弁護人の重要な活動として、次の2つの活動が挙げられる。

  1. 被疑者が裁判にかけられずに済むようにすること(不起訴処分を受けること)
  2. 裁判にかけられても軽い罪で済むようにすること(寛大な判決をもらうこと)

示談が成立すれば、反省していることをわかりやすく証明できる。「謝罪の言葉は口先だけではないんです。その証拠にほら、誠意としてお金をお渡ししましたよ。」と。

また、被害者感情もやわらぐ確率が高まる。(刑事裁判に被害感情をどこまで考慮するかは実は危険な問題をはらむが、それは別の話。)

いずれにせよ、「そこまでしたなら、今回は軽い処分(罰)にしてやろう」となって、不起訴ないしは寛大な判決が得られやすくなる。

そのため、弁護人になった弁護士は、示談の意向を被疑者や被告人に確認して、金をかき集め、被害者と接触を試みる。

示談活動ができる条件

ただ全ての刑事事件で弁護人が示談を進めるわけではない。一定の条件を満たしておく必要がある(と私は思う)。これは法律上の条件というよりかは慣例上のものだ。なお、示談は被疑者段階で行うことが多いので、被疑者について書く。被告人段階で示談することもある。

1 犯人性を被疑者が認めていること

犯人性とは、ある事件で何らかの犯罪(と疑われる)行為をした者であることをいう。自白をしている場合、罪を認めている場合は、犯人性ありということになる。また、例えば殺人罪で逮捕されているが「死なせてしまったけれども、殺そうとは思わなかったんだ。」と供述している被疑者の場合、犯人であることは間違いないので、やはり犯人性はありということになる。この場合、過失致死罪、傷害致死罪、殺人罪などなど何罪が成立するかということと、犯人であるかどうかとは直接は関係しない。

犯人性を認めていないということは、すなわち無罪である。したがって、この場合は示談をする意味がない。

「私は犯人ではないのだが、被害者と示談してきてくれ」というのは理屈としてよくわからないし、「ほんとはやってんじゃないの?」と思わざるを得ないからだ。

2 被疑者が望んでいること

被疑者にも言い分があって「あんな奴とは示談しない。」というのであれば、それ自体は尊重することが多い(少なくとも私は。)。「示談したほうが有利になるかもしれないよ」という助言はするが、弁護士が代わりに意思決定をすることは原則としてない。

ちなみに示談をしようとしないことで罪が重くなるかというと、そうでもないのではないだろうか。示談は成功すれば罪が軽くなりやすくなるが、失敗しても罪が重くならないというのが実感である。

3 自由に使える現金を用意できること

後に述べるとおり被害者を説得する必要があるが、それには現金を持っていくのが一番だ。「被疑者が後から払いますから、とりあえず示談してください。」を信用しろというのは無理だろう。

家族がいる場合には家族に用立てて貰うことが一番多い。

被疑者のキャッシュカードを預かって、被疑者の口座から下ろす弁護人もいるらしいが、あとから被疑者とトラブルにならないように、また銀行ともトラブルにならないように、委任状や指示書、預かり証などはきっちり作るべきだろう。

生活保護を受給している場合には、被害弁償はできない場合がほとんどだろう。生活保護費は犯罪の尻ぬぐいのために使われるべきではないからだ。

4 被害者を説得できること

そもそも被害者の連絡先が分からないと示談はできない。被害者の連絡先は検察官に教えてもらう。というか「被疑者が示談したがっているので連絡先を教えても良いかどうか被害者にきいてもらえないですか。」という態度できく。通常快く被害者に確認してくれる。

たまたま被害者の連絡先がわかっても、いきなり電話するより、検察官に一報することのほうが多い。検察官も処分の見通しを立てやすくなるからだ。

そしていざ被害者に連絡をしたら、被疑者に代わって謝罪し、示談の意向を伝え、必要なら何日間か考えてもらい、金額の交渉を行って、実際に示談を行う日時や場所を調整する作業を行う。

そもそも被害者がいない犯罪では示談できない。例えば覚せい剤使用の罪や銃刀法違反の罪などは誰と示談すべきか想定できない。したがって、説得しようもない。

示談の内容

示談の内容は次のような内容が含まれることが多い。

  1. 謝罪文言 まずは謝る。
  2. 示談金額 いくらで示談するか決める。「乙は甲に金****円を支払う。」など。
  3. 受領文言 その場で事前に交渉していた現金を被害者に渡す。「前項の金員を甲は乙から受領した。」など。
  4. 宥恕文言 「ゆうじょもんごん」と読む。要は「許します。」という意味だ。
  5. 清算文言 定めた示談金以外にお金の貸し借り、つけがなければ「甲及び乙は本条項に定めるもののほか、何等に債権債務関係が存在しないことを相互に確認する。」など。

このうち4については被害者が「許さないけど、お金はもらう」というタイプだった場合、どうするかは弁護人によって対応が異なる。お金をはらってしまうことがあれば、許してくれないならお金は払わないという場合もある。

5の精算条項については、何度も請求されないようにする工夫だ。

示談後の手続

弁護人は検察官に示談書のコピーを渡すなどする。これにより検察官に反省の態度をわかりやすく示すことができ、不起訴処分等が下される可能性が高まる。

また、裁判にかけられた場合に、示談書を証拠として提出すれば、裁判官に反省の態度を示せて、判決が軽くなる可能性が高まる。

加えて、弁護士亜は国選刑事事件の場合、法テラス充てに被害弁償することができれば一定のお金をもらうことができる。被害弁償をせずに刑事事件を終えた弁護士より、被害弁償を進めた弁護士のほうがよく働いているという見方だからだろう。


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