TOSの「ゆ~わくワイド」で児童相談所のニュースが流れた。警察と合同で子どもを保護する訓練をしたとのことだ。
ドアにかけたチェーンを切断して突入するようなシーンも流れた。これは臨検・捜索と呼ばれる手続だ。
臨検・捜索とは
臨検・捜索とは、児童相談所が、虐待されている子どもを確認・確保するために、強制的に住居等に踏み込み、子どもを探すことができる手続をいう。
臨検・捜索の要件
臨検・捜索は強制的に行われるので、人権を侵害する可能性が十分にある。誰だって家の中に踏み込まれるのは嫌だろう。そのため、法律上の条件を備え、手続を踏む必要がある。
児童虐待の防止等に関する法律には次のように書いている。
(臨検、捜索等)第九条の三 都道府県知事は、第八条の二第一項の保護者又は第九条第一項の児童の保護者が正当な理由なく同項の規定による児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する職員の立入り又は調査を拒み、妨げ、又は忌避した場合において、児童虐待が行われている疑いがあるときは、当該児童の安全の確認を行い、又はその安全を確保するため、児童の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該児童の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、当該児童の住所若しくは居所に臨検させ、又は当該児童を捜索させることができる。(中略)6 第一項の規定による臨検又は捜索に係る制度は、児童虐待が保護者がその監護する児童に対して行うものであるために他人から認知されること及び児童がその被害から自ら逃れることが困難である等の特別の事情から児童の生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあることにかんがみ特に設けられたものであることを十分に踏まえた上で、適切に運用されなければならない。
(1)保護者が調査を拒んでいること
いきなり家に踏み込むことはできない。児童相談所は、子どもが虐待されている可能性を察知した場合には、まず安全確認のための訪問、児童相談所への出頭要求(児童虐待防止法8条の2第1項)、立入調査(同法9条1項)、再出頭要求(同法9条の2第1項)を行う。
児童相談所はこれらの調査を強制することはできない。だから嫌がる親を逮捕して児童相談所にしょっ引いたり、家への立ち入りを拒否する親を排除して突入したりはできない。つまり調査をするのに親の同意なり承認がいる。
臨検捜索をするためには、少なくとも児童相談所が立入調査をしようとして、親が拒否したり無視した事実が必要になる。立入調査さえしていれば、出頭要求や再出頭要求は必要ない。これは法改正によってそうなった。
(2)虐待されている疑いがあること
子どもが虐待されている疑いがなければならない。例えば怒声と泣き声が続くという通告の記録や、子どもに傷や痣があるのを見かけたなどの目撃情報があれば、虐待されている疑いがあると言えるだろう。
なお出頭要求や立入調査を行うにはは虐待の「おそれ」で足りるが、臨検・捜索には虐待の「疑い」が必要である。言い換えると虐待の可能性がより高くなければならない。
(3)裁判所の許可状
(1)と(2)を踏まえて、裁判所に「臨検・捜索の許可を下さい。」と請求しなければならない。法律の専門家である裁判官に客観的かつ中立的に臨検・捜索が許されるかどうかを判断してもらうのである。
この際、裁判官は「そこに本当に子どもはいるのか?」「本当に虐待されているのか?」「本当に親は調査を拒んでいるのか?」などを資料上確認して、無意味不相当な臨検・捜索が行われないように歯止めにならなければならない。
臨検・捜索の手続
日没後に臨検・捜索を行う場合には、その旨の許可を裁判所に求めなければならない(同法9条の4)。
現場で保護者に許可状を示さなければならない(同法9条の5)。
保護者に身分証を見せろといわれたら児童相談所の職員は見せなければならない(同法9条の6)。
鍵などは壊して突入できる(同法9条の7)。場合によっては窓ガラスを破壊するなどもありうる。
現場からの出入りを禁じることもできる(同法9条の8)。例えば祖父母が隣の家から虐待親をかばいに来ても、現場に入れないことができる。
現場に立会人が必要である(同法9条の9)。児童相談所の職員が違法不当な臨検・捜索をしないか監視するためである。立会人は大家さんとか役所の職員が考えられる。多くの児童相談所は県が設置しているので、市役所の職員が想定されている。ただ、市が設置している児童相談所の場合は、市役所の職員ではなく、その他の公務員が望まれる。同じ役場の人間だと立会人として相応しくないからだ。
警察官の援助を求めるよう推奨されている(同法10条2項)。
臨検・捜索が終了したら調書を作り(同法10条の2)、知事に報告しなければならない(同法10条の3)。
臨検・捜索の価値
児童相談所の臨検・捜索は子どもを確保するための強力な切り札といってもよい。虐待している親から子どもを無理矢理にでも確保するための手段に一時保護(児童福祉法33条)があるが、虐待親が子どもを家に閉じこめたり、児童相談所の介入を強硬に拒む場合には一時保護ができないことも多々あるからである。
虐待親から子どもが自力で逃げ出すことはほとんど不可能である。だから死に至るまで親から逃れられない子どもが大勢いる。臨検・捜索はそのような子どもを救うための手段であり、濫用は許されないが、だからといって必要以上に行使をためらうことも許されない。
6 第一項の規定による臨検又は捜索に係る制度は、児童虐待が保護者がその監護する児童に対して行うものであるために他人から認知されること及び児童がその被害から自ら逃れることが困難である等の特別の事情から児童の生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあることにかんがみ特に設けられたものであることを十分に踏まえた上で、適切に運用されなければならない。
とはそのような意味である。しかし、あまり活用されていないのも実情である。