押収拒絶権の行使と日本弁護士連合会の会長談話について


令和2年1月29日、東京地検がカルロス・ゴーン被告の元弁護人であった弘中惇一郎弁護士の事務所を捜索して、中にある資料の一部を押収した。弘中弁護士は押収拒絶権(刑事訴訟法105条)を行使したが、東京地検はこれを無視して、法律事務所のドアを破壊して内部の捜索を強行した。弘中弁護士は「不愉快だ。どう落とし前をつけようか考え中」と発言。この発言は今後の国家賠償請求をにおわせるものだろう。

押収拒絶権については別途「押収拒絶権が行使できる要件と論点」を参照。

2日後の31日、日本弁護士連合会は会長談話として「法律事務所への捜索に抗議する会長談話[1]日本弁護士連合会HP。令和2年2月4日閲覧を発表。

同日、東京弁護士会が会長声明として「刑事被告人の元弁護人の法律事務所に対する捜索・差押に抗議する会長声明[2]東京弁護士会HP。令和2年2月4日閲覧を発表。これは英訳も付すという念の入れよう。

2月4日、大阪弁護士会が会長声明として「法律事務所への捜索に抗議する会長声明[3]大阪弁護士会HP。令和2年2月4日閲覧を発表。

 

押収拒絶権について

以前の記事では指摘しなかったが、弁護人が被告人から預かった物については、辞任や解任によって弁護人でなくなった後であっても、押収拒絶権が行使できる

これは刑事訴訟法の規定から当然にいえる。刑事訴訟法105条には「弁護士……の職に在った者は……押収を拒むことができる」と書いているからである。

弘中弁護士は1月29日時点ではゴーンの弁護人ではなくなっていたが、それでも弘中弁護士は押収拒絶権を行使することはできる。

 

押収拒絶権が行使された場合の効果についても付記する。

押収拒絶権はあくまでも押収(捜索の対象となる物が捜査機関にわたること)を拒絶する権利であって、捜索自体の拒否ではない。

しかし、そもそも捜索は押収に向けられた捜査活動である。押収すべき物を探すための捜査活動が捜索だということもできる。裏を返すと、押収できない物を捜索することはそもそも無意味であり、捜索自体が人権侵害に当たる以上、無意味な捜索は無意味な人権侵害であって正当化できない。

結果的に押収拒絶権の行使は捜索の拒絶という効果をもたらす

 

押収捜索における必要な処分

今回の問題は、押収拒絶権を行使している弘中弁護士の事務所を、検察官(捜査機関)が鍵を壊して侵入したという点にある。

捜索状(捜索令状)の執行については、鍵を外すなどの「必要な処分をすることができる」(刑事訴訟法111条1項)。しかし、これはあくまでも適法な捜索状の執行に限られた話である。

 

どう考えても違法

刑事訴訟法の文言を素直に解釈すれば、今回の捜索押収は明らかに違法である。適法とするためのハードルはかなり高いように思われる。今後、弘中弁護士は国に対して今回の違法な捜査活動について国家賠償請求を行うだろう。

そうだとすれば、刑事弁護に携わる弁護士としてはこの弘中弁護士の動きに同調しなくてはならない。というのも、これがまかりとおれば、今後自分たちの事務所にも捜査機関が大挙して訪れてあちこちひっかきまわすに飽き足らず、ドアも金庫も破壊してしまうだろう。そんな弁護士を信頼できる被告人などいない。弁護活動は効を奏さず、結果、捜査機関のやりたい放題がまかり通る世の中になる。今回の問題は刑事弁護全体の問題である


References

References
1 日本弁護士連合会HP。令和2年2月4日閲覧
2 東京弁護士会HP。令和2年2月4日閲覧
3 大阪弁護士会HP。令和2年2月4日閲覧

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