訴状を起案する際、毎回、私の心に1つのひっかかりを生み出す事項がある。
それは請求の趣旨の記載方法だ。
よくある請求の趣旨の記載方法
請求の趣旨とは訴訟の対立当事者に対して何を請求するのかを端的に表示した記載部分のことを言う。
例えば、
(記載例1)
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
との判決を求める。
など。
ちなみに、訴状の場合には、訴訟費用についても記載するのが一般的である。
訴訟費用というのは裁判所に納めた印紙代とか、郵送代とか、呼び出した証人の日当などを指す。
訴訟費用に弁護士費用は含まれない。
訴訟費用についても記載すると、次のようになる。
(記載例2)
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。
もっというと、金銭的な請求の場合には、仮執行宣言を求めるのが一般的である。
下級審の判決で勝訴した場合でも、上訴手続で上級審に移行して判決が確定しないことがある。
確定しない間に、金銭を支払いたくない被告が財産を散逸させるなどの行動をとる可能性はある。
そこで、法律上、仮執行宣言がついた判決があれば、強制執行をすることが認められている。
これも原告から裁判所に「仮執行宣言を求める。」とお願いすることが一般的である。
(記載例3)
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに第1項につき仮執行宣言を求める。
? 違和感が。
「及び」が正しいのではないか?
ここで気になるのが、「判決並びに第1項につき仮執行宣言を求める。」という表現である。
「判決及び第1項につき仮執行宣言を求める。」が正しいのではないか。
というのも、法律文書の起案のお作法上、「並びに」と「及び」が使える場面は区別されている。
例えば、犬のポチとプチ、猫のタマとミケについて、犬と猫を区別して一度に記載しようとすると、
ポチ及びプチ並びにタマ及びミケ
という記載の仕方になる。
要は大きな区分けには「並びに」を用い、小さな区分けには「及び」を用いる。
ここからいえることは、「並びに」と記載しているということは、どこかにより小さなカテゴライズの要素があるということだ。「並びに」がある以上、「及び」がどこかにないと違和感を覚えるのである。
(記載例3)
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに第1項につき仮執行宣言を求める。
「及び」がないじゃん!
(記載例4)
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決及び第1項につき仮執行宣言を求める。
こうが正しいのではないか?
裁判所はなんと言っているか。
裁判所がWebサイトで公開している訴状の書式には2種類ある。
東京地方裁判所が公開している特許権侵害差止等請求事件の訴状例は、「並びに」派である。
他方、裁判所が共通で公開している貸金請求事件の訴状例は、「及び」派である。
なんということだ……。公式見解が一定していない。
正直どっちでもよいということなのだろうか。
どちらがより納得できるか?
私としては「及び」の方が納得しやすいのだが、以下の理由から「並びに」派の主張も理解できる。
請求の趣旨には一般的に少なくとも2項分は請求内容が記載される。
本命の請求と訴訟費用の請求である。
「並びに」派の思考回路は、上記の記載例3でいうと
第1項の請求の趣旨に関する判決及び第2項の請求の趣旨に関する判決、並びに、第1項の請求の趣旨に関する仮執行宣言
という理解なのだろうと思う。
それにしても「及び」と明記していないので階層構造が見えにくいという不自然さはあるが。
そのため、例えば訴訟費用について言及しない訴状で本命の請求が1項分しかない記載例1のような場合に、仮執行宣言を求めるとすれば、「並びに」派であったとしても、
(記載例5)
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、金100万円、及び〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え。
との判決及び仮執行宣言を求める。
になるのではなかろうか。
おそらく「訴訟費用の記載もしてください。」と補正を促されるのがオチだろうが。