1 日大アメフト部の不祥事
日本大学のアメフト部員が大麻を所持していた疑いで逮捕された。
若者の間に大麻が流行していることは今更珍しくもない。
今回の事件で注目されるのは、日本大学が大麻所持をどの程度把握していたのかという点である。
2 時系列
ひとまず当事者である日本大学が公表している説明文書をもとに問題点を検討してみよう。
(参考:8月8日開催の記者会見における学長の経緯説明について)
時系列を整理する。
令和4年10月29日頃
アメフト部の保護者から部に対し大麻使用の調査依頼あり。
令和4年10月30日から11月6日の間
アメフト部指導陣が部員に対し聞き取り調査。大麻使用は確認できず。
令和4年11月下旬頃
部員の1人が指導陣に対し「大麻と思われる物を7月頃に吸った。」と自己申告
アメフト部は警察に相談するも物証がないなどの理由で立件されず。
アメフト部は同部員に対し厳重注意。
令和4年12月1日頃
アメフト部監督から日大競技スポーツ部に報告。
令和4年12月10日
アメフト部で、警察の申出により、薬物乱用防止講習会を開催。
令和5年6月30日頃
警察が日大に「アメフト部の寮で大麻が使用されている可能性がある」旨連絡。
日大副学長と競技スポーツ部長による視察では薬物は発見できず。
令和5年7月6日頃
警察が日大に再度大麻使用疑惑を指摘。その際、ひとまず大学主体の調査が行われることになる。
令和5年7月6日頃
持ち物検査を実施。「所有者不明の細かい茶葉のような物がわずかに付着している小さなビニール袋と、内容が不明の容器といった不審物を発見」。
令和5年7月18日頃
日大が警察に対し途中経過の報告と相談。
令和5年7月19日頃
副学長から理事長と学長に報告。
令和5年7月20日頃
警察が学生寮で発見された不審物を押収。鑑定に回される。
令和5年8月3日頃
大麻取締法違反及び覚せい剤取締法違反容疑で、学生寮を捜索。
この際、警察が日大に不審物が違法薬物であると連絡。
日大が学内に危機管理実務委員会を設置。
令和5年8月5日
警察が同容疑で学生1名を逮捕。
3 日大が渡った危ない橋
最も問題になるのは大麻と覚醒剤の所持又は使用であるが、日大も相当危ない橋を渡ったといわざるをえない。
何が問題かというと、7月6日の不審物の発見以後の動きである。
常識的に考えれば、その場で警察に連絡し、直ちに不審物を任意提出するべきだった。
そうであるにもかかわらず、12日間も放置した後に、警察に連絡している。
しかも、報道に向けた記者会見では澤田康広副学長が不審物を自らの判断で保管したことを認めている。
この澤田副学長、なんと次席検事(各地方検察庁のナンバー2)も経験したことのある元検察官である。
7月6日の時点で寮住みのアメフト部員が大麻を所持している可能性が濃厚になった以上、速やかに鑑定に回して、当該部員から任意又は逮捕の上で事情を聴取し、共犯者ないしは他の大麻所持者がいないかといった必要な捜査を行うべきだったし、それは可能だった。
しかし、澤田副学長の「保管」行為と警察に対する連絡懈怠により、7月6日に部員の1名が所持品を没収されたことを察知した他の大麻所持者は、いそいそと自らの所持する違法薬物を破棄することができた可能性がある。
4 証拠隠滅罪とまではいえない(と思う。)
澤田副学長の行為は刑法104条の証拠隠滅罪ではないだろうか?
(証拠隠滅等)第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅(中略)した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
(残念ながら)証拠隠滅罪には問われないだろう。
証拠隠滅、特に証拠を「隠した」というには、捜査機関が証拠の全部又は一部を使えなくすることを要する。
本件では、結果的には警察が植物片(澤田副学長は頑なに「植物細片」と言っていた。)を押収し、鑑定に回した上で、学生の逮捕に至っているので、証拠が使えなくなった場合には該当しないだろう。
もちろん、隠匿の期間は重要な要素で、12日間というのが長いのか短いのかは微妙なところではある。(これが数か月勝手に保管していたということなら隠匿ではなかろうか。)
確かに警察がすでに捜査に動きつつあったという事情を考慮すると、12日間の独自判断による「保管」が捜査に影響を与えたという点は否めないだろう。
しかし、警察と大学の協議で、ひとまず大学による調査に任せるという話になっていた以上、また警察に対し「何もなかった。」などと積極的な虚偽を述べたというような事情も見当たらない以上、12日間の独自の保管が「隠匿」とまでいえるのかどうかは、疑問である。
少なくとも「そんなに日をおかずに警察に提出するつもりだった。」という言い分は十分通るだろう。
5 まとめ
しかし、道義的に考えれば極めて不適切な事態といわざるをえない。
澤田副学長は「教育機関だから。」という話をしていたが、そんなことが今どき理由になるとは思えない。
すでに薬物乱用防止講習会まで開いて令和4年中に教育的指導をしていた後の事件である。
なにより薬物乱用が教育的指導により改善するなどという理屈もない。
どういうつもりで教育機関であることを強調したかは分からないが、神戸簡裁の牧会活動事件とは全く前提が異なるのである。