靖国神社の石柱に放尿する仕草をしたり、石柱にスプレーで落書きをした中国籍の男が起訴された。
罪状は礼拝所不敬罪と器物損壊罪。
器物損壊罪については落書き等でも認められているので起訴は不思議ではない。礼拝所不敬罪についてはちょっと意外だった。
礼拝所不敬罪は刑法188条1項に規定されている罪だ。
第百八十八条 神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者は、六月以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
そんなに重たい罪ではない。
礼拝所不敬が罰される理由は、国民一般の宗教的感情を保護するためである。
そのため、宗教的感情を害するような礼拝所に不敬な行為をしなければ成立しない。
神祠とは神道の神を祭った施設を指すとされるが、より厳密に言えばお社(おやしろ)である。学説上も、神祠に付属する社務所は含まれないとされている。刑法学者の山口厚によれば「一般の宗教的感情により崇敬の対象とされている場所であれば、既存の宗教と関係のない施設であってよい」(山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年、522頁)。
ここで問題になるのが「靖国神社」と書いてある石柱が礼拝所に該当するかどうかである。
石柱それ自体が崇敬の対象になっているわけではないので、私としては礼拝所不敬罪での起訴は意外だった。
石柱それ自体が神道でいうところの磐座(いわくら)のように崇拝の対象になるのであれば、礼拝所不敬罪に該当することは言うまでもない。
しかし、写真で見る限り、石柱は鳥居の外に立つ立派な標識柱にすぎない。これ自体を敬い、崇拝している一般国民というのはいるのだろうか。
礼拝所と一体の物だという理解だろうか。そうだとすると神社の境内とその境界上にあるものに関しては、全て不敬罪が成立しうることになる。少なくとも従前の法学的な理解からすると、処罰範囲が広くなったように思われる。したがって、裁判所も十分慎重にこの点を検討するべきであろう。
その他の要件について考えると、放尿する仕草が不敬な行為に該当することは言うまでもないだろう。「Toilet」と落書きすることも同様である。
放尿でなくとも、放尿の仕草でも駄目だというのは裁判例になっている。墓石に放尿の仕草をした事例である(東京高判昭和27年8月5日)。
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同じ放尿でもとっくりに放尿したことが器物損壊罪に該当するとされた件。
初めまして。牛盛と申します。
確かに石柱を「礼拝所と一体の物」とするのは、場所的に広範に過ぎるという懸念はその通りだと思います。
ただ、例えば建造物侵入罪について、単なる建造物の中だけでなく、いわゆる「敷地」までを(壁や門に囲われている場合)範囲としている点にかんがみると、礼拝所の範囲をある程度広くとらえる解釈も、無茶とまでは言えないようにも思えます。
もっとも、礼拝所不敬罪と建造物侵入罪とでは、保護法益が違うんですよね……。
私もどの結論を最も妥当とすべきかは迷っているところです。
失礼しました。
保護法益が違うという点が重要だろうと思いますね