悠仁親王殿下の机に刃物、なぜ建造物侵入の容疑なのか? 殺人を死体遺棄から捜査するのはなぜ?


悠仁親王が入学したお茶の水女子大附属中学校に何者かが侵入し、悠仁親王が使用する机とその付近に包丁を置いたそうだ。平成も終わろうとする中で注目に値する事件だと思う。

1.なぜ建造物侵入の容疑で捜査なのか?

警察は建造物侵入罪の容疑で捜査をしているようだ。「包丁を置いた。」という行為ではなく、「中学校に正当な理由無く立ち入った。」という行為に重点を置いて捜査をしているということである。

ここにも法治国家がどういうものなのかが表われている。包丁を置くだけでは犯罪とは言い切れないのだ。どのような目的で包丁を置いたのかが重要になってくる。例えば「刺してやるぞ。」「殺してやるぞ。」というメッセージを込めたものであれば、それは脅迫罪になる。また、「要らなくなった包丁をゴミの日に捨てるのが面倒だったので、悠仁の机に捨てる。」という目的があれば、不法投棄等になるのであろうか? およそ考えられないが。十中八九、脅迫だろうと思う。

警察は犯罪の疑いがあれば捜査を開始できる。しかし、犯罪かどうかが不明な行為についての捜査はあまりしない。というのも、どんな悪いことをしたのか説明できなければ、犯人を逮捕できない可能性があるからだ。「あなたを逮捕する。理由は法律的によく説明できないのだけれど」ということがまかり通れば、逮捕し放題になる。

そこで、警察は、固い容疑で捜査を進めることが一般的だ。固い容疑というのは、ほぼほぼ犯罪として間違いが無い行為という意味だ。今回の事件で言えば、中学校に正当な理由無く立ち入ったのは間違いないのだ。

刑法130条には次のように書かれている。

刑法130条 正当な理由がないのに、・・・建造物・・・に侵入し・・・た者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

(「・・・」部分は省略した部分)

中学校の生徒の机の上に包丁を置く為に、中学校に入ることは、ほぼ間違いなく「正当な理由がない」。そこで、警察は、今回の犯人が、悠仁親王を脅迫しようとしたのか何なのかはわからないが、少なくとも中学校に不法侵入したことは間違いない、ということで、建造部侵入の容疑で捜査を進めているのである。

2.今後は建造物侵入以外も捜査をする

建造物侵入の容疑で捜査を進めているからといって、建造物侵入の捜査しかしないわけではない。今後、侵入した犯人を取調べて、「なんで包丁を置いたんだ!?」という侵入の目的が調査される。そこで「皇族を脅してやろうかと思って。」などと自白すれば、脅迫罪が固い容疑になり始めるので、脅迫罪の捜査が正式にスタートする。殺してやろうと思って入ったがいなかった、などであれば殺人予備罪の捜査になるかもしれない。

このように捜査の目的が変更されることを容疑の切り替えと呼ぶ。

3.殺人の容疑か死体遺棄の容疑か

容疑の切り替えは建造物侵入以外にもよく見られる。一番有名なのは、死体遺棄の容疑が殺人の容疑に切り替えられることだ。

死体が発見された。どうも危害を加えられたらしく、死体に傷があったり、首を絞めたあとがあったりする。この場合、警察は「殺人事件かも・・・」と考えるはずだが、捜査は死体遺棄の容疑で進め始める。

というのも、死体があるだけでは、それが自殺した死体なのか、殺された死体なのか、ケガをさせたらたまたま死んでしまった死体なのか(例えば交通事故)、病死した死体を置き場に困って捨てたのか、わからないのである。死体ができた理由は、殺人罪、自殺幇助罪、同意殺人罪、傷害致死罪、重過失致死罪などなど、色々な犯罪行為が考えられるのだ。

そこで、とりあえず死体遺棄罪は固い容疑になる。まずは死体を捨てた犯人を捕まえて、その犯人を取り調べる。大抵、死体を捨てるということは、何かやましい理由があるから、それを聞き出していく。最終的に「殺した後の死体の処理に困ったから捨てました。」ということであれば、殺人罪に容疑を切り替えて捜査を正式にスタートさせるのだ。

4.容疑の切り替えの裏目的

以上のように、固い容疑から進めていくというのは、警察による法律遵守の表れだ。不確かな疑いで捜査を進めることは国民にとって不利益をもたらすからだ。

他方、警察も固い容疑から進めて、容疑を切り替えていくメリットがある。それは時間制限である。

逮捕、勾留といった身体拘束には時間制限がある。原則として逮捕から72時間以内に10日間の勾留をするかどうかを決めなければならない。また、10日間で勾留が足りなければ、最長もう10日間、勾留を延長することもできる。この時間制限はとても厳しい。制限時間を過ぎればもう起訴するかしないかを判断するしかなく、起訴しないのであれば原則として釈放しなければならなくなる。

そこで警察がどのような思考をするのか死体遺棄と殺人の例で考えてみる。ほぼほぼ「こいつは殺人犯だろうなぁ・・・。」と警察が思っていても、逮捕から23日以内に殺人罪の捜査を完了することは困難である。そこで、まず死体遺棄で逮捕して、23日間、死体遺棄の容疑での捜査とあわせて殺人の容疑も進める。「死体を何故捨てたのか」「どうやって捨てたのか」などは殺人容疑の捜査でも行うからだ。そして、改めて殺人罪で再逮捕し、また23日間、今度は殺人罪の容疑の捜査を進める。

これによって、本来、殺人罪だけの捜査では23日間しか時間がなかったところ、46日間の捜査が可能になる。制限時間が伸びるというのは警察にとっては大きなメリットだ。捜査時間を確保できるし、長い間身体を拘束すればするほど、被疑者の自白を得やすくなるからである。

実際は46日間まるまる拘束することはあまりない。それは、時間制限を設けた意味がないじゃないか、という批判を意識してのことなのだろうと思う。これは別件逮捕・勾留という刑事訴訟法の一大論点に関わる問題意識である。[1]それが先に殺人罪の容疑で、後から死体遺棄の容疑に切り替える、という手段をとらない理由にもなる。

まあ、その問題はともあれ、今回の悠仁親王の事件についても、過激派が関わっている可能性もある重大事件であり、捜査のための時間をなるべく確保する必要があるところ、初手が建造物侵入罪の捜査になったのだと思う。


References

References
1 それが先に殺人罪の容疑で、後から死体遺棄の容疑に切り替える、という手段をとらない理由にもなる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です