スシローの迷惑少年に対する6700万円の債権は、破産手続で免責されないのか?


令和5年1月、少年がスシローの醤油差しを舐めるなどの迷惑行為をし、その迷惑行為を撮影した動画がインターネットで拡散され、スシローが多大な迷惑を被ったという事件があった。

この件で、スシローは、株価の下落や売上減少等の損害が生じたとして、迷惑少年に対し、6700万円の損害賠償を請求する訴訟を提起したそうだ。

スシローは、今後も別の損害を主張して、賠償額を増額させる可能性をにじませている。

 

で、Twitter上で静かに注目されているワードが「非免責債権」だ。

仮に少年が敗訴して、スシローに対し多額の賠償義務を負ったとする。

「少年が自己破産しても、損害賠償債権は免責されないので、今後も一生搾り取られることになるか、そうでなければ搾り取れないほどの低収入にで生きることになる。メシウマ!」

(免責≒お金を払わなくてもよくなること。)

こういう論調のTweetが目立つ。

 

しかし、本当だろうか?

本当に少年は破産してもスシローへの債務は免責されないのだろうか。

 

確かに、破産法は免責されない債権(債務)を規定している。

これを非免責債権という。

そして非免責債権の1つに「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」というものがある。

重要なポイントは「悪意で加えた」という限定があるため、不法行為なら何でも非免責というわけではないというところだ。

不法行為には様々な種類があり、その程度がある。

(1)「ついうっかり」やってしまった(過失に基づく)不法行為。

(2)「わざと」やった(故意に基づく)不法行為。

(3)「積極的に他人を害そうとする意欲」(害意=悪意)でやった「悪意で加えた不法行為」。

説明の便宜上、このように分類した場合、破産しても返さなければならない不法行為に基づく損害賠償請求権は(3)である。(もっとも例外があって、人の生命又は身体を侵害した不法行為は別である。)

 

実務上のハードルは結構高く、簡単に「悪意で加えた不法行為」とは認定されない。

窃盗、詐欺、横領等の犯罪行為が不法行為であれば、悪意で加えたとも言いやすい。

しかし、不倫の精神的慰謝料の支払い義務も免責されてしまった例がある。

その違いは微妙なところだが、被害者に対する積極的な加害意思の表れがあるかどうかというところだろう。

確かに「妻に精神的苦痛を与えるために不倫するぞ!」というわけではなく、「君と不倫がしたいから、不倫するぞ!」という気持ちであることが普通だろう。

わざと悪いことをしている点では窃盗等の犯罪行為にも不貞行為にも共通だが、前者には被害者への害意があり、後者には被害者への害意はないとされやすい。

もちろん程度問題だが。

 

今回のスシロー騒動もそうではないだろうか。

果たして迷惑少年に「スシローの株価を下げてやろう」とか「スシローの客を減らしてやろう」という積極的な意思まで認められるのかどうか。

私は少し疑問であって、非免責債権だと断言することはできない。

 

大事なことは、Twitterの分かりやすく勇ましい意見はともかく、自分で正しい情報を集めて迷う必要があるということだ。


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