令和2年 全国戦没者追悼式 天皇陛下のおことば 雑考


先日、天皇皇后両陛下のご臨席の下、戦後75年目の全国戦没者追悼式が挙行された。天皇陛下は即位後2回目となるおことばを賜われた。本ブログでは昨年に引き続き、おことばについて雑考する。

ちなみに昨年の記事はこちら。

令和元年 全国戦没者追悼式 天皇陛下のおことば 雑考

まずは引用。

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来75年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。

私たちは今,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,新たな苦難に直面していますが,私たち皆が手を共に携えて,この困難な状況を乗り越え,今後とも,人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います。

ここに,戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

出典 宮内庁HP 主な式典におけるおことば(令和2年) 令和2年8月20日閲覧

昨年のおとことばとの比較

令和元年のおことばは以下の内容だった。

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来74年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。

戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

出典 宮内庁HP 主な式典におけるおことば(令和元年) 令和2年8月20日閲覧

昨年の注目ポイントは上皇陛下のおことばとの比較だった。今年の注目ポイントは昨年のおことばとの比較である。

というのも上皇陛下は全国戦没者追悼式でのおことばを細かく変更しており、その変更にそこはかとなくお気持ちが込められているように思われた。

天皇陛下が昨年のおことばから変更した箇所があれば、そこに天皇陛下のお気持ちが込められているだろうと思うのである。

さて、変更箇所を明確化してみよう。令和元年のおことばが今年は次のように書き直されている。(太字が変更箇所)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来74年75年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。

私たちは今,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,新たな苦難に直面していますが,私たち皆が手を共に携えて,この困難な状況を乗り越え,今後とも,人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います。

ここに,戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

「75年」

ここは単に年数の問題。

コロナへの言及

異例である。

全国戦没者追悼式は改めて説明するまでもないが、第二次世界大戦で戦死した旧日本軍軍人・軍属約230万人、及び、空襲や原子爆弾投下等で死亡した一般市民約80万人の日本人戦没者合計310万人に向けた追悼の式典である。

そのような式典で、コロナに言及したことから考えられることは2つある。

 

1つは、コロナによって生じた混乱が「私たちが(中略)人々の幸せと平和を希求し続けていくこと」を妨げることを懸念しているというお気持ちがありそうということである。

コロナで社会が混乱し、人々の気持ちがすさみ、平和への「たゆみない努力」を忘れてしまうのではないかということだろうか。

ただこの推察は弱い。やはりコロナと戦争は別物だし、コロナと平和を結びつけるのも現時点では唐突感が否めない。

例えば、平成23年(2011年)に東日本大震災が発生した。震災は揺れと津波による死傷者だけでなく、原発事故という最悪の二次被害をもたらしており、現在のコロナと同等かそれ以上の混乱を社会に与えた。しかし、この年の戦没者追悼式で震災への言及はなかった。

言ってしまえば戦後の混乱も震災もコロナも「苦難に満ちた国民の歩み」の1つであって、特別に言及するものではないようにも思われるのである。

 

そこで2つ目の見方であるが、新天皇としてコロナに関し国民全体にメッセージを送る機会として捉えたということである。

天皇陛下のお気持ちとしてコロナに言及したかったということであればわからなくもないが、やはり反面で全国戦没者追悼式の趣旨が薄れてしまったのではないかと思う。

東日本大震災のときと同じようにそれはそれで、別の機会を設けておことばを述べても良かっただろうとは思う。もし「別の機会」が天皇陛下に与えられていなかったため、天皇陛下のささやかな抵抗の結果、全国戦没者追悼式でのおことばに至ったのだとすると……。これ以上は穿った見方になるかもしれないが、コロナが震災に匹敵するほど深刻なものであるとの見方を封じる何らかの動きがあることを疑わせる。

 

「ここに」の位置

このおことばで用いられている「ここに」は「この時、この場所において」という意味だと思われる。ニュアンス的にはまとめの言葉を強調するために使う印象がある。

そうすると、「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という部分も強調する意図が伺えるように思われる。

「長い平和は当たり前のものではないのだ。たゆみない努力の成果なのだ。」という実感が、戦後生まれの天皇から出されたことについても、実に感慨深いものがある。上皇陛下から天皇陛下にしっかりと平和主義の考えが承継されていることがわかる。

 

まとめ

コロナへの言及という異例さはあったものの、概ね前年踏襲のおことばだった。


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