『サクッとわかるビジネス教養 地政学』奥山真司、新星出版社、2020を読んだ。
地政学とは「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える」アプローチ(本書p.16)である。
どうして日本が自衛隊を中東へ海賊対策に派遣するのか? その海を通って日本の経済に必須の中東産の石油が運ばれるから、石油を運ぶタンカーを海賊から守るためである。こういった思考法が地政学っぽい思考法だ。
この本は約160頁だが、中身はイラストが多いし、文章も平易で、非常にライトな本だ。語句の説明も何度もしてくれるので、読み返す手間も省ける。
ロシアが進出するルートの解説や、中国とインドのインド洋をめぐる争い、欧米とロシアの間でゆれるトルコの立ち位置など、地政学の触りはよく分かった。
本書が「見るだけで会話ができる!」と請け合う通り、世間話に使う分には使えそうな本である。どこの世間話で使うかは想定できないけど。
ただ、記述には「地政学の話か? それ」という記載も散見された。
パレスチナ問題は地理的な要因というより、イギリスの三枚舌外交をきっかけに、民族・宗教・思想による争いが生じているわけで、地理的な条件という観点は弱い気がした。
また、イギリスのEU離脱は、伝統的なイギリスの勢力均衡という外交戦略が影響しているという説明の仕方はどうだろうか。確かにイギリスは大陸諸国の1国がイギリスを超える力を持たないように巧みな外交を行ってきたことは有名なことだ。だが、今般のEU離脱は大陸諸国への影響力を考慮した結果というより、EUの枠内にい続けることによる移民への憎悪であって、戦略的なものを感じないのである。地理というより経済的な要因が大きいように感じる。
明らかな誤記も散見された。
113頁に「拡大した中国の勢力にランドパワー勢力が戻り、中国は失速」とあるが「シーパワー勢力が戻り」の誤りだと思う。
誤りではないかと連絡しようとしたが、奥付に書かれたURLを入力しても上手く飛ばない。電話での問い合わせは受け付けていないと書いている。
新星出版社のWebサイトを見ると、やっぱり奥付に書かれたURLとは違っていた。ここまで誤記だともう面倒なので指摘の連絡はしていない。