勾留理由開示請求のやり方


カルロス・ゴーンの事件に関連して、勾留理由開示請求が注目された。

私も勾留理由開示請求をしたことがある。そのことを同僚に話すと「えっ、そんなことするのか。」と言われた。カルロス・ゴーンの事件をきっかけに勾留理由開示請求が、もっと積極的に活用されればよいなと思う。

勾留理由開示請求とは何か

勾留理由開示請求とは日本国憲法に書かれている由緒正しい権利である。

憲法34条には次のように書かれている。

 第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない

憲法は言うまでもなく法の中の法。最高法規。自由の象徴といってもよい最も重要かつ重大な法である。

その憲法が、刑事事件の犯人とされる人間を身体拘束する場合に「必ず行え。」と命じているのが「理由の告知」である。

そのため、裁判官が出す逮捕状や勾留状には身体拘束の理由が書かれている。ざっくりいうと「あなたは罪を犯した疑いがあり、逃げたり、証拠を隠したりする可能性があるから、捕まえるんですよ」ということが書かれている。

もしあなたが無実の人ならば、この理由に逐一反論して、逮捕や勾留を避けられるかもしれない。裏を返せば、この理由が示されなければ反論のしようがない

そして、「要求があれば必ず行え。」となっているのが、「公開の法廷」での「理由の告知」である。この要求のことを勾留理由開示請求という。

公開の法廷だから、誰でも見ることができる。無実の人間が捕まっているならば、親族や友人が「裁判官はなんてバカな判断をしたのだろう。」と批判の目で裁判官を見ることができる。

逮捕・勾留されたなら、事実上、犯罪者のレッテルを貼られることになる。人生に深刻な影響を与える。会社をクビになるかもしれない。離婚になるかもしれない。想定すればきりがないほどの不利益がおそってくる。

そのため、裁判官を監視する機会が必要だ。自動販売機のようにポンポンと身体拘束されては困るのである。

勾留理由開示請求のメリット

裁判所を監視する機会を国民に与えるというのが、勾留理由開示請求の目的だと私は思っている。

ただ、おまけとして、以下のようなメリットもある。

(1) 勾留理由を開示される時は警察署や拘置所からの移動時間を含め、取調べができない。そのため、不当な取調べを受けている人にとっては、重要な息抜きになる。

(2) 勾留中に家族と会えない人もいるが、勾留理由開示は「公開の法廷」で行われるから、傍聴席から家族の元気な姿を見せたり見たりできる。子どもがいる場合には精神的な支えとなるだろう。

(3) 被疑者は自分の意見を述べることもできる。不当勾留の怒りをぶつけていい。ただし、制限時間が1人10分まで。なお、書面にして提出することもできる。

(4) 国選弁護人は勾留理由開示請求で国選刑事弁護報酬が加算される。被疑者の権利実現にもなり、報酬にもなるなら一石二鳥だと思う。

勾留理由開示請求のデメリット

唯一ありそうなデメリットは、裁判官の前で話をしたことが記録されてしまうと、もう変更がきかないということだ。

例えば不利な事実をポロッと話してしまうと、それが記録され、あとあとの裁判で不利な証拠として使われる。

ただ、弁護人がついているから、基本的に不利な事実は話さないように助言されるだろう。場合によっては原稿を用意してくれるだろう。だから心配するほどのデメリットではない。

勾留理由開示請求の現実

メリットは多く、デメリットは少ないから、勾留理由開示請求をやらない理由はない。

しかし、現実は憲法の理想とはかけはなれてしまっている。そのため、元々の勾留理由開示の目的を期待して請求してしまうと、非常に残念な気持ちになる。

まず、勾留の理由は懇切丁寧に教えてくれない。「警察が出した証拠を見た結果、犯罪者である疑いは確かにあるし、逃げたり、証拠を隠したりする可能性が十分あると判断しました。」程度のものである。「誰々さんが見たと言っていて、その証言は一応信用できるから」とか「防犯カメラの映像に映ってますよ」などといった説明はない。

裁判官に「もう少し説明して」と質問をしても、大抵は裁判官から「捜査上の秘密なので教えられません。」と言われる。

唖然とした事件がある。取調べの担当刑事が「お前がレジからお金を盗んだ様子は、カメラにばっちり写ってんだぞ。」と写真を示しながら自白を迫っていたにもかかわらず、勾留理由開示の中で私が裁判官に「カメラには何が写ってたんですか」と聞くと「捜査上の秘密なので教えられません。」の一点張りだった。もう刑事が被疑者に写真を示しているのだから秘密でも何でも無いと思う。実に愚かなことだと思う。

要は全く勾留理由は開示されない。適当に勾留状に判を押しているのがバレるから答えられないのではないか?

それでも勾留理由開示をしてほしい

人質司法と呼ばれる状況の一番の原因は裁判官の思考停止だ。

簡単に勾留しすぎるのだ。人の人生を左右するにもかかわらず。

このような現状を打破するにはプレッシャーを与えるしかない。裁判所はプレッシャーを気にする。カルロス・ゴーンの事件で東京地方裁判所が勾留延長を却下した旨を公表し、報道が過熱したことから明らかである。

当然、プレッシャーに簡単に左右されるようでは、お隣の国の裁判所のように法律も何もあったものではなくなる。しかし、全くプレッシャーがないというのも、日本の司法にとっては良くない。全ての勾留で勾留理由開示請求されるくらいで丁度良いのだ。

勾留理由開示請求は裁判所にとって面倒な手続だ。というのも、法律に基づき、請求があってから原則5日以内に、法廷を準備し、裁判官と書記官の日程を確保し、警察署などと調整し、理由を開示しなければならないからだ。こんな面倒なことやってられないということになれば、そもそもの勾留自体慎重に判断するようになると思う。

勾留理由開示請求のやりかた

勾留理由のやり方は簡単である。

被疑者・被告人、弁護人、被告人の法定代理人、補佐人、配偶者、直系親族(子や親)、兄弟姉妹、その他利害関係人が請求できる。

大抵は捕まっている本人(被疑者・被告人)か弁護人が行うことになる。また、弁護人以外の人が請求する場合には、弁護人に相談したほうがよい。上述のデメリットがあるからである。

請求は請求書を出す方法で行う。口頭では請求できない。

書面というと難しく感じるかもしれないが、以下の手順に従えば簡単である。

(1) 白紙の1番上に「勾留理由開示請求書」と題名を書く。

(2) 作成日付作成者の氏名押印と、勾留した裁判所の名前(「東京簡易裁判所」など)、被疑者・被告人との関係(妻とか父とか)を記載する。

(3) 本文に「(何年何月何日)に勾留した(被疑者・被告人の名前)について、勾留理由の開示を請求する。」と書く。

勾留した裁判所といつ勾留されたかは被疑者や弁護人にきけばわかる。

A4用紙で1枚以上になることはまずないと思う。

裁判所への手続費用はかからない。

聞きたいことがあれば質問事項として事前に出すことができる。もっとも先述のとおり回答は期待できない。

その後、裁判所から日程調整の連絡があるので、5日以内の日程を調整して、指定された法廷に行く。

たったのこれだけである。

なお、注意しないといけないが、1人の被疑者につき、勾留理由開示は1回しかできない

ちょっとした疑問

被疑者段階での勾留理由開示請求の根拠法として、刑事訴訟法207条1項が準用する同法83条という記載がウィキペディア等にはある。

しかし、207条1項は裁判官の権限について述べているだけで、裁判所に対する請求権を記載しているものではないから、被疑者段階での勾留理由開示請求権の根拠にはならないのではないかと思ったりする。

そうすると、同請求権については、憲法34条後段から直接導かれる権利なのではないかと思うのだが、いかがなものだろうか。


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