持続化給付金詐欺の罪の重さ
持続化給付金詐欺の問題は比較的深刻な社会問題である。今年になって、何件か相談を受けた案件があった。事件に関わってしまったがどうしたらよいでしょうという相談である。私の回答は「とっとと自首すべし。自首が認められるかどうかは知らんけど。」である。
このような相談のときには決まって、持続化給付金詐欺の量刑について問われる。「何年くらいの判決になりますか」という質問だ。
そこで、持続化給付金詐欺の判決に関し、コツコツ調査したものがあった。最後の相談から半年程度が経ったし、年末に何か記事を書きたかったので、若干の所感を述べたい。
調査方法等について
判例秘書という判例データベースサービスを利用した。
「持続化給付金」、「詐欺」で検索の上、持続化給付金に関する詐欺のみを調査した。そのため、他の犯罪、例えば強盗未遂等が一緒になって裁かれている事案は除いている。
高等裁判所の判決も除いた。これは大分県の弁護士は、私選弁護でもない限り、高裁案件を扱わないので、私の仕事にはあんまり関係がなく、あんまり興味もないからである。弁護人になったら調べるだろうと思う。
数え漏れがなければ全部で34件の事件があった。本日までに搭載されている件数である。
なお、共犯者の事件が併合されているケースでは、共犯者1人を1件と数えている。
なお、持続化給付金詐欺については既に詳細に検討している弁護士事務所があり、専門職はこちらのほうが参考になるかもしれない。
(参考:水野FUKUOKA法律事務所様「続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ14 100件突破 持続化給付金判例百選なるか」令和4年12月9日閲覧)
私のこの記事は、どちらかというと私の主観が混じった所感程度の文章である。なるべく分かりやすく書くことも心がけた。
そのため、この記事を参照した結果、何らかの不利益が生じたとしても、私は一切責任を負わない。それを前提に読んでいただきたい。
量刑の傾向
一般論
私の主観的な印象では、被害額100万円以上の財産犯は、執行猶予がつくよりも実刑のほうが多いという印象がある。
つまり、初犯だろうとなんだろうと原則、すぐに刑務所に行く内容の判決、実刑懲役判決が出るという印象だ。
最近そんな大きな事件を扱ったことがないので、実際のところどうなのかはわからない。
ただ、この印象が正しければ、持続化給付金詐欺は最低でも100万円の被害額が生じることが多いので、基本的には実刑が視野に入る事件ということになる。
執行猶予がつくかどうかの境界
何が執行猶予と実刑判決を分けるのか
とはいえ、持続化給付金詐欺の場合には、執行猶予がつく判決が多いような気がする。つまりは、すぐに刑務所に行かずに、何年間か様子を見て、再犯に及ばなければ、懲役刑の執行を免除するという内容の判決が出ることが多い。
執行猶予判決と実刑判決の境界はどのあたりだろうか。
上記の裁判例を見ると、虚偽申請に関与した回数、被害弁償、担当した役割が大きな考慮要素になっていることが伺える。
虚偽申請に関与した回数
まず、件数についていうと、11回以上の持続化給付金の不正取得に関わった場合は、概ね実刑である。34件中13件が実刑判決だったが、そのうち9件が11回以上の虚偽申請に関与している。4件は10回以下である。
ただ、この4件の内2件は、それぞれ特殊事情がある。3回の持続化給付金詐欺に関わった事案では、詐欺の前科があった。1回の持続化給付金詐欺に関わっただけの事案も執行猶予中の再犯だった。このような特殊事情があれば、普通は実刑判決になるだろうと思う。
残りの2件は、勧誘役(後述)としてそれぞれ600万円(6回分)、300万円(3回分)の持続化給付金をだまし取っている事案だ。勧誘役であっても執行猶予が付されている事案はあるので、少し厳しい判決が出たと言ってもいいだろう。もっとも、後者の事案では情状証人がいなかったようだ。社会内で監督する人がいないことが、少し響いたのかもしれない。前者の事件では、被告人が勧誘役であるが、被害弁償をすべて勧誘された申請者が行っており、「被告人自身の負担ではないことから、量刑上有利に考慮するにも限度がある」という旨の指摘がなされている。自分で金を用意しないとだめだと判断されたのだろう。
他方で、執行猶予がついた判決は34件中21件であり、11回以上の虚偽申請があったものは1件のみだった。なお、この1件は45回もの虚偽申請に関与している。この事案は、税理士が関与した。4500万円を返金済みか返金準備を整えたこと、税理士登録を抹消したこと、自ら警察に出頭したこと、申請者に手数料を返金したこと、情状証人を複数用意したことなどが効を奏したようである。特に、被害弁償したことと、警察への出頭が大きかったと思う。
全体を通じてみると、11回以上(被害額1100万円以上)の持続化給付金詐欺に関わった場合、90%の確率で実刑判決になるようである。10%に滑り込むには返金、自首、情状証人の3点セットが求められそうである。
他方、10回以下の持続化給付金詐欺に関わった場合であっても、およそ17%の確率で実刑判決になるようである。特殊事情があれば、実刑判決の可能性は跳ね上がる。
被害額が1100万円というのが1つのメルクマールなのかもしれない。
被害弁償
被害弁償は量刑に大きく影響を与える。持続化給付金詐欺の場合には、国への返金手続に時間がかかるので、返金済みであるだけでなく、返金手続きを始めているかどうかも重要な点のようだ。執行猶予判決のためには、早めに返すための手続をするに越したことはない。
もっとも、関与回数が多いとそれだけ被害弁償も困難である。上述した11回以上の案件10件の内、全額被害弁償の見込があるのは2件に留まる。しかも、そのうち1件については実刑判決だった。これは1100万円の被害額の内、220万円が本人の分け前だったが、ひとまず1100万円を弁償したか返金手続を取った事案である。両親と勤め先の社長が情状証人に立ったようだが、実刑となった。なかなか厳しいものである。
ただ、11回以上関与した被告人が、被害弁償をしても無駄というわけではない。刑罰がそれなりに軽くなっている。例えば被害額6100万円中、5300万円を返金(見込)の事案では、懲役9年の求刑に対し、懲役5年6月の判決がでており、3年半短くなっている。全体的に見て、求刑の半分以下の判決になったケースはないが(控訴の関係だろう。)、1~2年程度短くなった判決は散見されるので、被害弁償が無駄というわけではない。どうせ返さなければならないお金なので、積極的に金策すべきである。
執行猶予が付された21件中、全く被害弁償をしていないし準備もしていないと思われる件数は6件あった。執行猶予判決21件中、30%弱は被害弁償をしていないにもかかわらず、執行猶予がついていることになる。もっとも、被害弁償の誓約をしていたり、そもそもの被害額が少ない(100万~300万)などの事情は考慮されるべきであろう。あと、執行猶予期間が3年でなく4~5年になっている事案もある。
そうすると、先程の所感とあわせると10回以下の関与であれば、被害弁償をしなくても、執行猶予が付される可能性はないわけではないということになる。もっとも、返す意思、返す能力をアピールする必要がないというわけではないだろう。概ねどの執行猶予判決にも「被告人の反省」が記載されているが、これには被害回復の意図も含めていいだろう。あと、どうせ国から回収されるので、返す努力を怠って良いとはいえない。
なお、被害弁償の原資を誰が出すかという問題が考慮された事案を先程紹介したが、特殊な事案という扱いで良いのではないだろうか。他方、自分が犯行時に受け取った取り分については最低限返金しているという点が評価された判決は散見される。全額返金が無理なら、せめて自分が受け取った分ぐらいは返すように手配しろということだろう。
担当した役割
34件の持続化給付金詐欺は、ほとんどが共犯者がいる。
申請名義人役として、申請書や資料に名前を記載し、直接国から持続化給付金を受け取る役が必須である。
そして、勧誘役や仲介役と呼ばれる、申請名義人役を見つける役である。以下では勧誘役とのみ表記する。
加えて、勧誘役や仲介役を束ね、複数の虚偽申請を全体的に管理する首謀者がある。
持続化給付金詐欺の判決を読むと「組織的」「計画的」という言葉がよく出てくる。より犯罪を実行しやすい組織を作り、より犯罪を実行しやすい計画を立てた、あるいはそれに関与したという点が、犯行の悪質さを基礎づけるのである。
首謀者か勧誘役かは曖昧な部分もあるが、分前の額や取得の仕方、指示の有無等から判断されているようである。
概ね首謀者やそれに近い立場にある勧誘役はほぼ実刑である。勧誘役であっても、勧誘件数が多かったり、勧誘後の指示が多かったりすると、首謀者に近い立場として、実刑が見込まれる。
他方、勧誘役であっても、件数が少ない場合には執行猶予判決も出ている。
そして、人間関係が希薄な他人同士が組織としてつながっている場合より、家族関係や友人関係で犯行が完結している場合には、執行猶予判決になっている雰囲気である。
もっとも、このあたりは結局関与回数や被害弁償と直結する考慮要素である。つまり、首謀者であればあるほど、あるいは勧誘役として熱心であればあるほど、当然被害額も大きくなる(関与回数が増える)のである。そして被害弁償もしにくくなるだろう。他方、家族関係や友人関係であれば、関与者が少なく、結果として被害額も少なく、被害弁償もしやすいのだろう。
とすると役割分担は、少なくとも執行猶予かどうかの判断にはあまり影響を与えないようである。もちろん、求刑と判決の差が小さくなる効果はありうるが、その効果がどの程度かまでは分析できなかった。
全体的な所感
結局、執行猶予と実刑判決を分ける一番大きな考慮要素は関与回数、次に被害弁償、そして役割分担となるだろう。もちろん前科前歴や執行猶予中かどうかは決定的と言って良い考慮要素になる。
実刑判決だとして、どの程度の刑罰を科すかについては、反省の態度、情状証人の有無、社会的制裁の有無が考慮されるようである。これは普通の刑事弁護でも同じだが。
11回以上の関与の場合には、ほぼ実刑という一応の基準は頭に入れてもいいだろう。11回以上関与している者は、「やれることは全てやる」を徹底するしか執行猶予の芽がなさそうである。
特におすすめするのは警察への出頭である。自首が成立するかどうかは法律上の問題点はあるものの、警察に自ら出頭することが不利になることはない。被害弁償もできない、情状証人もいない、もとから社会的地位もないようなケースで、有効な行動ではないだろうか。
本来、困窮した事業者のために、(実態はともかく)簡易迅速な手続を目指して設けられたことをよいことに、制度を悪用し、濡れ手で粟の大金をゲットしていること自体、悪質としか言いようがない。
しかも、事業者ではないが困窮している個人を利用して、手数料名目でピンハネしている例も少なくなく、同情の余地は全く無いといってよいと思う。
そもそも、困窮している個人も、このように大金に目がくらんで、適切な社会制度を利用しないということは強い非難に値する。
ここまで読んでくれたのは、奇特な人か、法律関係の人か、潜在的な被疑者被告人であろう。事件に関わった者にはいち早く、自首ないし警察に出頭することを勧める。
1人で行くのが強ければ最寄りの弁護士事務所に相談して一緒に行くのもよい。