読書メモ 『気象は戦争にどのような影響を与えたか 近現代戦に見る自然現象と戦場の研究』熊谷直


「風雨に乗じて敵に気が付かれないように接近し、一気に襲い掛かり、混乱する敵を打ち破る。」

「霧のかかった戦場で、蹄の音がし始め、突如として姿を表した騎馬隊が敵兵を蹂躙する。」

 

ドラマや映画の戦場のシーンでは大抵、気象条件がスパイスになる。

実際の戦争でも気象が利用され、気象が影響して結果が決まっていった。

このことを、特に近現代の戦争を事例に紹介した本が、『気象は戦争にどのような影響を与えたか 近現代戦に見る自然現象と戦場の研究』である。

著者の熊谷直氏は、防大出の航空自衛官であり、防衛研究所戦史部にも勤め、定年退官後は軍事史家・軍事評論家として活動しているそうである。

 

読んだ中で興味深かった内容を少し紹介する。

 

真珠湾攻撃が何故12月8日だったのか?

日本が太平洋方面で活動を開始する場合、背後をソ連に襲われることが大きな懸念事項だった。

そのため、太平洋方面での作戦開始は、ソ連が身動きを取りにくい冬の時期が良いと判断された。

ここで雪と氷に閉ざされるソ連の気象条件が考慮されたわけである。

 

他方、1月以降になった場合、太平洋方面では季節風が吹き荒れる。

これによって、艦船や航空機の活動が制約される。

ここでも海の気象が開戦時期に影響しているのである。

 

そして、10月頃を開戦時期と考えていたが、準備がずれ込み12月となり、マレー半島方面で月明かりが利用できる12月8日が選ばれた。

夜に作戦行動をする場合、月明かりがあるかどうかで動き方が全く変わってくるのであろう。

 

この他、外交交渉の影響や、日本国内の石油備蓄量の問題も影響しているわけだが、やはり気象条件も少なくない影響を与えているのである。

 

仁川上陸作戦

真珠湾攻撃が攻撃のしやすさを念頭に気象条件を考慮したのと異なり、攻撃の困難さを念頭に気象条件を考慮したのが仁川上陸作戦だ。

朝鮮戦争の戦況を一変させた作戦である。

指揮官はダグラス・マッカーサー元帥。

米政府・米軍首脳から何度も翻意を促されながらも、マッカーサーがこの作戦にこだわったのは、まさに「困難であるが故に敵は油断している」という信念が影響していた。

 

作戦地域は水深が浅く、また潮の満ち引きが激しいため、作戦行動に支障が出るとされていたのである。

マッカーサーは支障が出ると相手も思っているから警戒が手薄だというある種の賭けに出たわけである。

 

そして、実際大成功だった。

この上陸地点の選定に気象条件面での困難さが一考慮要素になっている。

やはり気象が戦争に大きな影響を与えたといえるだろう。

 

感想

全体的に面白かったのだが、気象と戦争というテーマから外れる一般的な戦史説明も多かった。

戦史を研究していた筆者なので、それが面白くないわけではないが、やや気象というテーマからピントがずれてしまっているようにも読めた。

 

話は変わるが2020年にアルメニアとアゼルバイジャンとの間で発生したナゴルノ・カラバフ戦争では、大量のドローンによる現代戦が展開された。

新しい戦争の様相を呈している。

こういったドローンは小型で軽量なイメージであり、やはり風雨の影響を大きくうけるのだろうか。

これに気象がどのように影響してくるのか、気になるところである。


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