カルロス・ゴーンは褒章受章者だった
今日の日経新聞を読んで知ったが、カルロス・ゴーンは平成16年に外国人経営者としては初めて藍綬褒章を受章していた。
内閣府によると、藍綬褒章は「会社経営、各種団体での活動等を通じて、産業の振興、社会福祉の増進等に優れた業績を挙げた方」[1]http://www8.cao.go.jp/shokun/shurui-juyotaisho-hosho.html 内閣府HPより 2018年11月25日閲覧に授与されるとのことである。
大勢の労働者をリストラして、会社の業績を上げた経営者が、いつ「産業の振興、社会福祉の増進等に優れた業績を挙げた」のか疑問であるが、今回の報酬過小記載事件でめでたく剥奪されることを期待したい。
その剥奪に当たっての手続きは勲章褫奪令(くんしょうちだつれい)という法令に記載されている。褫奪とは剥ぎ取ることであり、勲章褫奪は勲章を剥奪することである。
司法修習の頃の思い出
今となっては昔のことだが、弁護士資格を得るために司法修習という研修を受けていた頃のこと。
司法修習では、弁護士業務のみならず、検察官や裁判官の業務にも触れねばならず、私たちも検察庁で数か月の修習を受けた。[2]ちなみに、弁護士・裁判官・検察官を、法曹(ほうそう)といい、全ての法曹を指して法曹三者(ほうそうさんしゃ)と言う。
検察庁では、実際に被疑者を取り調べるという修習を受けるので、私は、事前に、取調べの方法や、お作法を一生懸命調べていた。
取調べでは、被疑者が話した内容を聞き取って文書(調書)を作る。警察官か検察官が、被疑者の取り調べで必ず作るのが、身上調書と呼ばれる調書である。身上調書は「身の上を記載した調書」であり、被疑者の生い立ちとか、家族構成とかが書かれる。あと、人となりについても書かれるので、自分の性格とか、酒はどのくらい飲むのか、暴力団と付き合いはあるかなどといった事項も書かれる。
そして、勲章や褒章を貰ったかどうかも必ず聞かれる。大抵の被疑者は勲章を貰ったことがないので、普通は、「私は、今まで勲章などは貰ったことがありません。」という一文が記載されることになる。
ところが、私が担当した被疑者は、元公務員で、「私は、~~年に、~~章を貰いました。」と記載された身上調書が警察から上がってきた。ハウツー本にもこういう場合の対処法は載っておらず、指導担当の検察官に聞いてみたが、やはり対処はわからないとのことで、修習の一環として調べることを命ぜられた。
そこでたどり着いたのが勲章褫奪令である。勲章褫奪令は何と明治時代の勅令(天皇の命令)だ。随分と歴史のある法令で、もちろん今でも有効である。
勲章褫奪令に書かれてあること
勲章褫奪令で重要なのは1条と2条である[3]原文はhttp://www8.cao.go.jp/shokun/shiryoshu/kunsho-chidatsu_1908.pdf 内閣府のHPに掲載されている。2018年11月25日閲覧。
1条には死刑、懲役、又は、無期若しくは3年以上の禁固に処せられた者は、勲章を剥奪し、勲章の現物を没収する、と書かれている。
2条には、執行猶予判決を受けた者、3年未満の禁固に処せられた者、懲戒によって失職した者、素行が悪く勲章を有する者としての面目を汚した者は、情状によって、勲章を剥奪し、勲章の現物を没収する、と書かれている。
1条に該当する事由があれば、問答無用で剥奪するが、2条に該当する事由があれば、悪質だと認められた場合に限り剥奪という違いがある。
そして勲章褫奪令には施行細則があり、勲章褫奪令施行細則[4]http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=141M10000001002 2018年11月25日閲覧には手続きを行う者が定められている。
主に検察官や上司が「賞勲局総裁」に文書で通告することになっている。賞勲局総裁とは今でいうところの内閣府賞勲局局長だ。
困るのは「素行が悪く勲章を有する者としての面目を汚した者」である。これは所轄長官が賞勲局局長に文書で通告することになっている。所轄長官とは誰かがわからない。
指導担当検察官に相談したところ、代わりに内閣府に電話して問い合わせて下さった。すると、所轄長官とは勲章を授与するよう推薦した省庁の長とのことだった。
知らなかったが、外交に関することで勲功がある人間は、外務省が内閣府に叙勲の推薦をしているとのことで、この被推薦者が面目を汚した場合には、外務省(外務大臣?)が通告することになっているそうだ。
検察官からは推薦者である省庁の長に情報提供してもいいし、しなくてもいいとのことで、解決した。今もこの扱いかは知らない。
おわりに
カルロス・ゴーンはまだ有罪判決を得ているわけでもないし、懲戒で失職したわけでもないから、今のところは「面目を汚した者」ということになりそうである。
さっさと褒章を褫奪するべく、賞勲局局長には早急に対応してほしい。
また、今、カルロス・ゴーンは、東京拘置所に勾留中であるから、褒章を身につけることはできない。これも勲章褫奪令に書いてある(3条)。
1/10 追記
References
↑1 | http://www8.cao.go.jp/shokun/shurui-juyotaisho-hosho.html 内閣府HPより 2018年11月25日閲覧 |
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↑2 | ちなみに、弁護士・裁判官・検察官を、法曹(ほうそう)といい、全ての法曹を指して法曹三者(ほうそうさんしゃ)と言う。 |
↑3 | 原文はhttp://www8.cao.go.jp/shokun/shiryoshu/kunsho-chidatsu_1908.pdf 内閣府のHPに掲載されている。2018年11月25日閲覧 |
↑4 | http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=141M10000001002 2018年11月25日閲覧 |
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