令和元年 全国戦没者追悼式 天皇陛下のおことば 雑考


本日、戦後74年目の全国戦没者追悼式が行われた。注目はなんと言っても新天皇陛下のおことばだ。短いので引用する。

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来74年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。

戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

出典 http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/48#184 令和元年8月15日閲覧

上皇陛下のおことばとの比較

今回の注目ポイントは天皇陛下の戦争に対する考え方である。前天皇である上皇陛下との比較でそれを考えてみる。

上皇陛下が最後に全国戦没者追悼式でおことばを述べたのは平成30年8月15日だ。これも短いので全文引用する。

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に73年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。

戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

出典 http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/30#130 令和元年8月15日閲覧

こうすると天皇陛下と上皇陛下のおことばはほとんど変わらない。天皇陛下は上皇陛下の戦争に対する考え方を継承されていると言って良いのではないかと思う。

ただ、細かな点では異なる。上皇陛下のおことばが以下のように書き直されている。

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に73年74年国民の人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた往時をしのぶとき国民の歩みを思うとき感慨は今なお尽きることがありません誠に感慨深いものがあります

戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省とともにの上に立って今後,再び戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

「74年」

ここは単に年数の問題。

「人々の」

ここは努力によって日本の平和と繁栄が築き上げられたことに言及している部分だ。問題は誰の努力かということである。

「国民」は当然のことながら日本国民を指す。上皇陛下のおことばでは「国民の努力」に触れられていたが、これは「日本国民の努力」という意味である。

「人々」は日本国民だけを指す言葉ではない。人間一般のことを指している。だから天皇陛下が「人々の努力」に触れられたということは「日本国民に限られない人々の努力」という意味合いを持っている。

思えば日本国憲法の前文には次のようにある。

日本国民は(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。

要は平和と繁栄は自国民の努力によってのみ達成されるものではなく、国際社会との協調において達成されるものであるとの意識が見られる。実はこの意識は上皇陛下も重視されている観点である。

関連記事:天皇陛下在位30年記念式典について雑考 元号・おことば・象徴天皇制

「多くの」

苦難が多かったことに言及している。

「国民の歩みを思うとき」

元々「往時を偲ぶとき」という表現だった部分である。「偲ぶ」には「懐かしみながら思う」というニュアンスがある。どちらからというと体験者が体験したことを思い出すという意味合いがある。そうすると戦争体験や終戦後の経済復興までの苦難を知らない世代が「偲ぶ」という言葉を使うのには多少の違和感が生じる。そこで「想像するとき」とか「思いをいたす」という意味合いで、「思う」に変更されたのであろう。

ここで「国民の」という言葉を使っているのも注目である。ここは日本国民の苦難についてのみ言及していることになる。

「感慨深いものがあります」

上皇陛下は「感慨は尽きない」という表現だったが、30年間の天皇としての活動の長さを意識したものだろう。30年間思いを馳せても、馳せ終わるということはないという意味合いだ。そう考えると、天皇陛下に即位されてから最初のおことばとしては「感慨深いものがある」という表現になるのもうなずける。

「深い反省の上に立って」

ここも「深い反省とともに」というのはまさに反省している当事者の言葉である。戦中世代としての上皇陛下は「深い反省」をしている当事者なのだ。

他方で戦後世代の天皇陛下はその反省を継承する立場にある。だから「これまでの反省を受け継ぎますよ」という意識を滲ませた表現に変わったのだろうと思われる。

その他

その他の点は語順の入れ替えだろう。特に意味を見いだすことはできなかった。

まとめ

以上のとおり、天皇陛下は上皇陛下の立場を継承しつつも、戦後世代の新天皇である関係上、語句をより適切なものに改変されたとみることが出来る。

 


令和元年 全国戦没者追悼式 天皇陛下のおことば 雑考」への2件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です