読書メモ 小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』講談社現代新書,2021年


私は手塚治虫の『火の鳥』が好きだ。特に鳳凰編が好きで、何度も繰り返し繰り返し読んでいる。

主人公が「なぜ生きものは死なねばならぬのか?」「いや…なぜ生きるのか?」「死ぬために生きるのか?」と問うシーンがある。中盤の名シーンだ。

この問いに生物学者が答え、答えから主張を発展させたのが本書である。

『生物はなぜ死ぬのか』は我々に良い意味で諦めを与えてくれる本だと私は思った。

何故死ぬのか

答えをまとめてしまうと、生物は進化の過程で個体(や個体の細胞)が死ねるように進化をしてきたからということになる。

どうして死ぬように進化したのかというと、変化する環境の中で存在し続けるためには多様な個体が存在する方が望ましく、多様な個体が存在するには古い個体が死んだほうが望ましいからということになる。

 

本書の論理を追えば、個体が死ぬ仕組みのほうが種としては個体の多様性を確保しやすく、個体の多様性が確保しやすい方が変化する環境の中でも存在し続けやすいから、死ぬように進化した生物ばっかりが残ってしまったというほうが正確だろう。

言い換えると、38億年の生命の長い歴史の中で、個体が死なない種は、種自体が死に絶えてしまいやすい。結果、死に絶えてしまえば残っていないので、残っている生物の種は必然的に個体が死ぬような種ばかりになった。

 

私達が死ぬのは種がそのように進化したというだけなのだ。

悪いことをしたから死ぬわけでもなく、名誉のために死ぬわけでもない。

コインを投げたら表が出たという程度の偶然で、私達は死ぬ定めになったということである。

私達が生まれたということは、遠い先祖か、赤の他人か、そもそもヒトかはともかく、誰かが死ぬ定めを背負ったからだということでもあろう。

 

各個体が死なないようにしたほうが種に含まれる個体の多様性は膨らむ気がするが、この問いに対する明確な答えは見つからなかった。ただ、進化の過程で死を獲得した種が生き残りやすかったということが示されていれば、門外漢の私はひとまず良い。

 

問「生物はなぜ死ぬのか」

答「死ぬようにできているからである。そこに何の価値もありはしない。良くも悪くも死の本質はあなたに対する報いではない

 

その他本書で面白かったこと

目次からして面白いのだが、

第1章は「そもそも生物はなぜ誕生したのか」

第2章は「そもそも生物はなぜ絶滅するのか」

第3章は「そもそも生物はどのように死ぬのか」

第4章は「そもそもヒトはどのように死ぬのか」

と、上の結論を導くための土台となる議論が、様々な興味深い例示や余談を交えて展開されている。

 

ネズミのくせに長寿なハダカデバネズミの話、不老不死と話題になったクラゲの話、テロメアに関する巷の誤解、色々と面白い。

 

正直、筆者が終盤に書いているAI論や社会論はさほど興味を引くものではないが、事実はやっぱり面白いのである。そして、それをわかりやすく軽妙に語ることができることはある種の才能だと思う。


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