公判前整理手続に付する請求の要否


問題1

弁護人が刑事事件において付公判前整理手続請求を行うべきなのは、どのような場合か?

検討結果

弁護人は、刑事事件の事案が複雑な場合、付公判前整理手続請求を行うべきだと考える。

事案複雑な場合とは、争点が多く、情状証人を除く証人予定者の数が多い事件をいう。

認め事件は事案が単純であることが多いので、付公判前整理手続請求すべき場合は少ない。

否認事件では、被告人や証人予定者の供述の信用性を検討するために、検察官から証拠開示請求を受ける必要性が高く、原則として、付公判前整理手続請求をするべきである。

例外的に、否認事件であっても、争点が単純な場合、検察官から十分な証拠の任意開示を受けられ、かつ、情状証人を除く証人予定者の人数が3人以下のときには、付公判前整理手続請求をすること自体に慎重になるべきである。

理由

平成28年改正について

平成28年に刑事訴訟法が改正され、検察官、弁護人及び被告人に、裁判所に対して公判前整理手続に付することの請求権が認められるようになった。

改正以前は、公判前整理手続は裁判所が職権で付すものであり、弁護人には、職権発動を促す上申をだすことしかできなかった。

改正により、「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要がある」という要件が満たされる場合には、弁護人は公判前整理手続に付することを請求できる。

これを付公判前整理手続請求権という。

そこで、付公判前整理手続請求をするかどうかの判断が弁護人に求められることになる。

もっとも、職権発動を促す上申をするかしないかの判断をするべき改正前の時代と、現在とで、本質的に状況が変わったわけではない。

公判前整理手続によって生じる被告人の利益・不利益

公判前整理手続は被告人に大きく2つのメリットをもたらす。

1つは、検察官に証明予定事実記載書を出す義務が生じるので、弁護人が、検察官の立証予定を把握しやすくなり、争点に絞った有効な弁護活動が可能になりやすい点である。

もう1つは、弁護人に一定の証拠開示請求権が与えられるため、やはり弁護活動が可能になる点である。

いずれも弁護活動のしやすさから、被告人の防御権行使が容易になることが明らかであり、結果的に被告人にとっては利益である。

他方で、公判前整理手続に付することによって、結果的に、公判前整理手続期間分、裁判の期間が生じることになるというデメリットがある。

とはいえ、公判前整理手続が行わなければ、争点や証拠が十分に整理されず、公判の期間が延びることになる。

裁判の期間が長期化しても、被告人が勾留されていなければ、さほど大きなデメリットでもない。

仮に勾留されていたとしても、保釈等で対処することがある程度は可能である。

したがって、被告人にとっては、大きなデメリットとまでは言えず、裁判の長期化は一応考慮すべきデメリットであるにとどまると考える。

利益・不利益を考慮した付公判前整理手続請求の要否について

以上の検討を踏まえると、次のように言える。

まず、被告人のメリットが少なければ、長期化のおそれを冒してまで、付公判前整理手続請求を行う必要性はない。

そして、被告人のメリットが多ければ、積極的に付公判前整理手続請求を行うべきことになる。

結局、付公判前整理手続請求の要否は、被告人に生じるメリットの多寡で決定されることになる。

 

法学的論点が多いなど争点が多数でも、証拠関係が単純であれば、期日と期日の間を比較的長く空けることによって、弁護人は対処できるであろうから、付公判前整理手続請求するメリットが少ない。

したがって、争点が多いことは、直ちに付公判前整理手続請求のメリットを増やすものではない。

また、認め事件であれば、仮に証拠関係が複雑なケースでも、関連性がない、必要性がないといった程度の証拠意見で対処としては足りるであろうし、争点自体が情状に限定されることが多いので、やはり付公判前整理手続請求するメリットが少ない。

 

具体的にメリットが発現しやすいのは、否認事件で証拠関係が複雑なケースである。

そして、証拠関係が複雑な場合でも、物証やそれに類する主観証拠が多いのであれば、まだ証拠調べの負担は大きくない。

他方、証人の数が多くなるようであれば、やはり争点を絞り、尋問事項を絞るという意味で、公判前整理手続により効果的な弁護活動を行う必要性が高まるように思われる。

 

また、3人程度の証人であれば、任意開示さえ十分であれば、公判前整理手続ではなく、打合せ期日で十分対処可能なようにも思われる。

もっとも、任意開示が十分かどうかを弁護人が検討するには、公判前整理手続きが必要な場合も多いだろうから、即断は禁物と思われる。


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