刑事弁護人として損害賠償命令にどう対応するか


否認事件、すなわち被告人が自分の罪を認めていない刑事事件では、犯罪被害者と被告人に鋭い対立関係が生じうる。犯罪被害者と弁護人も同じだ。弁護人は徹頭徹尾被告人の味方だからである。犯罪被害者からすれば、敵の味方は敵であろう。

そのような対立関係が可視化される一例が被害者による損害賠償命令申立てである。

損害賠償命令申立ての概要

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律(被害者権利保護措置法)第7章以下に規定されている手続が損害賠償命令申立手続である。

これは犯罪被害者が、別途民事訴訟を提起しなくても、民事訴訟の確定勝訴判決と同じ法的効果を得られるように配慮した手続である。

具体的には殺人、傷害、強制性交等の一定の犯罪について(同法23条1項各号)、その刑事裁判の弁論終結までに(同項柱書)、犯罪行為(不法行為)に基づく損害賠償を命じるようその刑事裁判が継続している裁判所に求める申立てることにより始まる。

申立が不適法であるなどの事情がなければ(同法27条)、原則として刑事裁判の有罪判決期日に損害賠償命令申立ての審理を開かなければならない(同法30条1項)。無罪判決であれば申立てが却下される(同法27条3号、刑事訴訟法336条)。

審理期日は原則4回までで(被害者権利保護措置法30条3項)、終結後には決定書が作成される(同法32条1項)。犯罪被害者や被告人は決定書の送達を受けてから2週間以内に異議を申し立てることができる(同法33条1項)。異議の申立てがなければ、損害賠償命令申立てにかかる裁判が確定判決と同一の効力を有する(同法33条5項)。

異義が出れば民事訴訟に移行することになる(同法34条1項、同法38条4項)

刑事弁護人としての対応

対応しなければならないか?

損害賠償命令は刑事裁判の手続に付随しているが刑事裁判とは全く別物である。したがって、弁護人は対応しなくてもよい。

対応したほうがよいか?

そこで対応した方が良いかどうかという判断になる。

刑事裁判への影響としては控訴審での情状判断に影響するかという問題がある。特に認諾が与える影響という観点から見ると、有利に斟酌している高裁判例が何件かある(例:大阪高判平成23年5月19日など)。もっとも「原審までに賠償できたでしょう。控訴審になって認諾したから軽くしてとは虫が良すぎやしませんか」という批判をかわす必要はある。

例えば被害者側が損害賠償命令にこだわり、被告人側が提示している金額を全く考慮してくれなかったといった事情や、認諾した金額以上の金額を払っているなどの事情があれば、情状として考慮できることになろう。まあ、全部否認の場合では中々ないだろうが、一部否認や罪名を争っている場合であれば、このような事情も生じよう。

しかし、結局認諾するのであれば弁護人がわざわざ代理人としてつく必要があるのかどうかも微妙なところではある。代理人になったほうが決定書等を入手しやすくなるので、前述の情状証拠の収集という点からは代理人になってもよさそうな気はする。仕事も簡単だし。

ただ、まるで民事事件の様相を呈するのであれば、刑事弁護人としての負担感も考慮しながら行うことになろう。そして当然報酬を得ることになるだろう。しかし、国選弁護人の場合、私的に報酬を得て損害賠償命令申立て事件の代理人になることが許されるのかどうかは弁護士倫理の観点から十分に検討された方が良いかと思う。

また、私的に受けないにせよ、全部否認の場合には、被告人の利益のために、「認諾なんかすれば認めたも同然だからやめたほうがいい」とか「異議を出せ」とか「争え」などと有罪判決後の手続きについて教示したほうがいいだろう。また、控訴意思の確認と同時に多少は損害賠償命令申立て事件の方も気にかけてあげるくらいが丁度良いと思われる。

対応する場合にはどのようにするか

弁護人は当然には代理できないので、委任状を取得することになる。拘置所等では差し入れ宅下げを早めにスケジューリングしておかないと、損害賠償命令申立ての審理までに間に合わないおそれがある。

期日の流れ

刑事裁判で有罪判決が宣告されたら、すぐに傍聴席から人が閉め出されていく。そして直ちに損害賠償命令申立ての審理が始まる。この時までに委任状がなければ、弁護人も追い出されることになる。

代理人であるところの弁護人は事前に答弁書を持参しておくことも考えられるが、裁判官が見るのは有罪判決宣告後であるから(同法26条)、どうせ認諾するのであれば答弁書を作成しなくてもいいだろう。

 


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