明治41年の日本弁護士大会の様子


次の画像は何を描いたものかお分かりになるだろうか?

明治41(1908)年10月22日、長野県の応住寺山の麓(長野市)で開催された、日本弁護士協会臨時大会後の様子である。

議長は「鳩山博士」とあるので、おそらく鳩山和夫である。日本で初めて法学博士号を得た秀才。その長男は鳩山一郎元総理。二男は鳩山秀夫で明治大正の民法学の権威(鳩山の弟子が我妻栄である。)。全員弁護士資格を持っているが、年齢的に議長は鳩山和夫だろう。

 

同大会での議題はいくつかあるが、「刑事訴訟法を改正して予審に弁護士を許すの規定を設くる事」「弁護士接見に看守の立会を廃止する事」という議題があり、今も昔も弁護士団体の活動の中で刑事弁護が重要視されていることが分かる。今では被疑者国選制度が拡大し、また弁護士の秘密接見が重視されるようになった。まさに明治以来の先人の奮闘の成果に感謝せずにはいられない。

他方で、大会を閉会する際には「天皇陛下の万歳を奉祝」している。なんとも戦前の弁護士会らしい様子だ。

 

大会終了後は「各々園遊会場に走」り、そこかしこで宴会を始めたようである。冒頭の画像はその様子である。再度掲載しよう。

一番左はおそらく鳩山博士。「終始美妓に曳かるゝ莞爾莞爾顔」(ずっと美人のお姉さんに引っ張られてニコニコ顔)と称されている。浮かれてんなぁ。

真ん中は「菊池先生の串団子の横カブリ」とある。菊池先生というのはおそらく菊池武夫のことである。菊池先生、3本も串団子を持ってるのはあまり上品とは言えませんなぁ。というより視線がイッちゃってる。団子がそんなに美味しかったのかしら。

食事の後は、バンド演奏、落語、喜劇などが催され「実に稀有の盛会」となったようである。

以上の括弧書きは法律日日88号(1908年11月発行)の6頁からの引用である。

 

さらに面白いのは、同じ法律日日88号の4頁の記事である。「大会一摘」(たいかいひとつまみ?)と題して、日本弁護士協会臨時総会に出席した弁護士を皮肉っている記事が載っている。

弁護士というものは法廷や依頼者の前ではしゃんとしているが、旅行をすると日頃よりも言動に性格が表れるというテーマで書かれている。この10つの言動・性格を挙げている。

1 むやみに近くの人につっかかる人

2 人を役立たずと罵って得意げな人

3 一人で偉そうにする人

4 知ったかぶりをして人に笑われている人

5 その土地のことを調べようと、優れた点を質問する人とこれに答える人

6 ひたすらに世間話をする人

7 なんでもかんでも不満タラタラな人

8 隅っこの方で黙っている人

9 いきがって自分を大きく見せようとする人

10 どこまでもキザな人

 

(原文)

一 無暗に傍人に衝懸る者

一 人の秕糠を罵りて得々たる者

一 独りエラがる者

一 博識を衒うて滑稽を演ずる者

一 地理を按し形勝を問う者又是に答うる者

一 淳々として世間話に耽る者

一 物毎事毎に不平駄羅々々なる者

一 陰忍室隅に黙する者

一 蛮勇自ら負う者

一 ドコまでも気障なる者

(引用者:原文の旧字を一部新字に改めた。)

この記事の筆者は、「一々其人名を指摘すると当り障りが出来るかも知れぬから、今は之を省略するけれども、諸君は夙に御承知の筈、大抵ハハアと頷かるることであろう」と結んでいる。

そりゃそうだろう。令和の私でも、これはあの弁護士のことかな……?などと思いを起こすことができるのだから。

 

(参考文献)『法律日日』(88),法律日日社,1908-11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1493568 (参照 2023-10-28)

 


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