稲垣栄洋の『世界史を大きく動かした植物』を読んだ。
著者は『生き物の死にざま』といった本も出しており、変わった切り口で、動植物の生態を描くことで知られている。
著者の本は、学者らしく文章が明晰で簡にして要を得る記述なので、サクサクと読めてしまうのも特徴である。
今回紹介する『世界史を大きく動かした植物』では、章ごとに植物を取り上げて、世界史とどのようなつながりを持っているのかが、様々な知識と絡めて取り上げられている。
例えば、第8章「チャ」では、お茶の葉がテーマだ。
なるほど、茶だけを取り上げると、イギリスにおける産業革命以後の都市労働者の眠気覚ましとしての紅茶、三角貿易、ひいてはアヘン戦争という重大事件と密接な関わりを持っている。
さらには、アメリカ独立革命の前日譚となった「ボストン茶会事件」もまさに茶がもたらした重大事件である。
このような重大事件との関わりを記述する合間に、茶、ティー、チャイの語源のようなウンチクが挟まっている。
初めて知ったことだが、茶は中国の広東地方では「チャー」と発音していたそうだ。
これが東の日本に伝わって「チャ」になった。
他方、広東地方よりも西のシルクロード方面では「チャイ」になっている。
そしてイギリスといった西欧諸国では福建地方での茶の発音「テ」が元になって、「ティー」になっている。
堅苦しい歴史叙述ではなく、明日誰かに話したくなる楽しい構成がとられている。うーん。さすがだ。
他にもジャガイモやトマト、コショウやチューリップといった、全部で14種類の植物が取り上げられている。
文明の始まりから、大航海時代を経て、現代社会との関連まで、時空を俯瞰して感じられるのが素晴らしい。
是非、今まさに歴史を学んでいる中高生くらいが読むと良いのではないかと思う。
もちろん、大人が読んでも為になるし、面白い。